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秋半ばの頃、王都からサリナだけ馬車に乗って帰領してきた。
兄達も一緒に戻ってくると思われたのだが、王立学校にて休み明けに大事な試験があるとのことで。上位の成績を修めるため、王都で猛勉強中なのだとか。
「サリナ姉様は、向こうで勉強してなくて良かったのですか?」
率直に、ハルコンが訊ねたところ、
「あぁ大丈夫よ。課題だけはちゃんと提出してるから。心配しなくて平気よ!」
サリナはそう言って、ニッコリと笑った。
どうやら、姉の成績はあまり芳しくないらしい。
学校の勉強がしんどくて辛いだの、父や兄達のように将来王宮で仕事をしたり、役人になるつもりもないそうなのだ。
とにかく、学友とのネットワークを作ることに、今は専念したいらしい。
「ねぇ~っ、ハルコン。あなた、新作料理とかリバーシとかいろいろ発明しちゃっているのよねっ?」
「えぇ、……そうですが」
「ならさぁ、ちゃっちゃっと、面白い遊びとか教えてくれない? 退屈しなくて、……でも、ちゃんと達成感があって。しかも、良家のお嬢様っぽく上品で褒められる感じの遊びとか、ないかしら?」
「遊びと言いますけど。う~ん、そうですねぇ、……」
ここで、ハルコンがいくつか頭に思い浮かんだのが、例えば茶道。
こちらの世界でも茶会なんてものがあるから、何か面白くできそうな気もするけど。
まぁ、……ありきたりか。なら、華道かなぁ?
剣山とか花器は、こちらの世界でも代用品があるから、それで何とかなるかも。
「姉様。フラワーアレンジメントとか、如何でしょうか?」
「フラワーアレンジメント?」
「はいっ。おそらく女子ウケいいですよっ!」
「いいねぇ、それっ! 私、女子の友達いっぱい作りたいのっ!」
「姉様、一体どうして?」
「ほらっ、兄様達のように私、努力家じゃないし。ハルコンのように発明の才能もないでしょ? 最近のセイントークは王都の流行の最先端だから、私も周りからいろいろ期待されちゃうのよ。だから、お願いっ! フラワーアレンジメントを教えてっ!」
「そういうことでしたら。さっそく道具を用意しましょう!」
準備を済ませ、姉と一緒に花瓶に花を活けていると、ミラが遊びにやってきた。
「いいなぁ! 私もやりたいっ!」
なら、もう一人分席を用意して、再びアレンジメントを始めた。
ミラはサリナ姉さんに明るく礼儀正しく接するので、姉はかなりご機嫌な様子だ。ミラのことを、実の妹のようにかわいがって接してくれる。
「まぁ、……とりあえず、こんなものかな?」
3人は30分程で何とか仕上げると、母ソフィアに品評をお願いした。
「いいわねっ! 良く頑張った。皆、偉いわっ!」
ソフィアから褒められて、サリナとミラは嬉しそう。ハルコンの目から見ても良く仕上がっているので、おそらく2人はフラワーアレンジメントのセンスがあるのだろう。
「今度王都に戻ったら、必ず流行らせてみせるわ!」
サリナ姉さんは、ガッツポーズをして意気込んでいる。
今回、ミラも一生懸命フラワーアレンジメントにチャレンジしていた。
彼女は、どうしても私に認められたいと強く思い込んでいる節があるので、そもそもやる気が凄いんだと、ハルコンは感心した。