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14 複式簿記と算盤、それと華道_06

   *          *


「女神様のお力で、……あの殺し屋のNPCにアクセスして、犯行を阻止することはできなかったのでしょうか?」


 ハルコンは、ずっと抱えてきたこの気持ちを、初めて女神様に打ち明けた。

 すると、女神様はニコリと諭すように、こう仰られた。


「あの晩の事件がもし起こらなければ、あなたは翌日の記者会見で、ペテン師の烙印を押されるところだったのです」


「えっ!? それって、どういうことでしょうか?」


「突然なのですが、あなたの提出した論文に瑕疵があると匿名の通報が齎されました。直ぐにマスコミからは弾劾され、他の研究機関が再現実験を成功できなかったことで学界からも追及され、研究論文は不正があったと取り消されてしまいます」


「まさかっ、……そんなバカなこと、あるワケないじゃないですかっ!?」


「いいえ。それが日本という国なのですよ。それでも晴子さんと研究室の皆さんは抵抗を続けるのですが、……皆さんも立て続けに事故に遭い、最後、晴子さんは電車のホームに転落した際に、お亡くなりになりました」


「……」


「それでも、エリクサーはあったのです。晴子さんの研究は、確実に成功していました。これから数年先まで再現実験には成功しないのですが、近い将来、再び晴子さんは脚光を浴びることになります」


「それが、試薬Aの再発見ということですね?」


「えぇ、仰るとおりです」


 ハルコンだけでなく、女神様もどこか興奮した調子になっていた。それがハルコンにとってはとてもありがたく、親身になって頂けることに、感謝の気持ちでいっぱいになった。


「私は、……果報者です。女神様のご配慮に、大変感謝しております」


 そう言って、ハルコンは深々と頭を下げた。


「いいんですよ。私達、友達じゃないですか? これからもいっぱい仲良くしましょうね!」


 女神様はそう仰って、ハルコンの手をギュッと掴んできた。


「めっ、女神様!?」


「晴子さん、……あなたは地球の人類にとって、類まれなる人物でした。そんな素晴らしいあなただからこそ、私は大いに期待しているのです。これからも、私の願いを叶えて頂けませんか?」


 女神様は、さっきからずっとハルコンの両手をしっかりと握って放さない。

 すると、今回もまたハルコンの全身を、女神様の齎す真善美の3つのパワーが駆け巡り、多幸感の嵐が波のように幾重にも迫っては、ハルコンの頭脳を蕩かせてゆく。


「めっ、女神様!? 私、これから何をすればよろしいのでしょうか?」


「あらぁ~っ! さっそく私のお願い聞いて下さるのねっ! さっすが晴子さんっ!!」


 女神様はニンマリと笑い、ぺろりと舌を出している。

 ハルコンは肩で息をしながら、「とんでもねぇ~女神様だ!」と思わず呟いた。


「まぁ、先ずは恋愛かしらね。晴子さんは、とにかくミラちゃんを大事になさいねっ! 他の貴族のご令嬢に目移りするのはいたし方ありませんが、これからもミラちゃんを、よろしくお願いしますからねっ! ハルコン君っ!」

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