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14 複式簿記と算盤、それと華道_02

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 前世の晴子が学生の頃、ガチガチの理系にも拘わらず、将来何かの役に立つのではないかと思って、簿記と会計の講座も併せて受講していた。


 もちろん何事も卒なくこなす彼女だ。最終的に簿記3級の資格まで取得してしまっていた。

 まぁ今回は、前世で得たその知識を、こちらの世界でもさっそく導入しようと思ったのだ。


 数日後、くだんの中年の商人と若い番頭が、セイントークの屋敷を訪ねてきた。

 2人は当主のカイルズに恭しく頭を下げ、傍らにいるあどけない表情のハルコンにも深々と頭を下げた。


 この中年の商人は、東方3領と王都を結ぶエリアを取り仕切る大店の代表だ。

 それ程の財力と実力を兼ね備えた商人が、まだ幼いハルコンにまで頭を下げることは、とても異例なことと言えた。


「ほう、商店主殿。貴殿はハルコンのことを知っておったか?」


 カイルズは、率直に疑問を口にした。


「えぇ、存じ上げております。我らはその『縁』により、深く結ばれておりますので」


 カイルズは、かつて同じ言葉を聞いたことがある。

 それは、一級剣士と晩餐をした際、軽武装の女盗賊が集団で屋敷を訪れた、あの日の晩のことだ。一級剣士と女盗賊は互いに面識がないにも拘らず、「縁」で結ばれていると告げたことを。


 カイルズは、軽々に邪竜の尾を踏む愚か者ではない。ちらりとハルコンの表情を見たら、もうこれ以上踏み込むことはなかった。


 カイルズは、さっそく中年の商人と若い番頭の2人を帳簿の資料室に招き入れ、単式簿記でまとめられた帳簿の一部を、複式簿記に置き換える作業の指南を受けた。


「なるほど、……これは凄いな。帳簿が仕訳されていくということか」


「はい。カイルズ様の仰るとおりでございます。我が店でも先日より導入し、帳簿の刷新を行っているところでございます」


 カイルズや屋敷の財務担当の者達は、直ぐにその利便性に頷いた。これまでのやり方を改め、複式簿記の導入を進めることが、ハルコンの目の前で決まった。


 先ずは帳簿の仕訳を行い、全ての取引の記録と集計をまとめる。

 最終的には貸借対照表と損益計算書を作成し、領内の財務状況がこれまで以上に明瞭になるといって、大人達は歓迎ムードだ。


 今回一番の収穫は、セイントーク領において、経理の不正が一切行われていなかったこと。

 その辺りは、善政を布くカイルズならではだろう。


「なぁ、ハルコン。オマエはどう思ったかね?」


 気を良くした様子のカイルズが、終始黙っていたハルコンに声をかけてきた。

 すると、中年の商人と若い番頭も、興味深そうな顔でハルコンをじっと見つめてくる。


「父上、……今後、何かしらの計算器が必要となりますね?」


「計算器、……何か、妙案でもあるのかね?」


「はい、今度も親方に言って作って貰いましょう!」


 ハルコンの言葉に、商人達も目を見張った。


「カイルズ様、我々にもハルコン様のお作りになられる計算器を、お譲り頂けないでしょうか? ぜひ、お願い申し上げます!」


「ということだが、……ハルコン、商店主殿の分もお願いできるかね?」


「はい、父上。とりあえず30ケ、製作いたしましょう!」

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