「なぁ、ハルコン。折り入ってオマエに相談があるのだが、……」
集めていた土壌サンプルの研究資料をまとめていると、父カイルズがドアをノックしながら部屋に入ってきた。
「はい、何でしょう、父上?」
ニッコリ笑顔で見上げるハルコン。傍で手伝いをしていたミラも、不思議そうな顔をして同じように見上げている。
「ハルコン、何だかオマエの部屋は、段々と錬金術師の作業部屋のようになってきたな!」
カイルズの怪訝そうな言葉にミラも同意したのか、こくこくと頷いている。
「えぇ、まぁ、……。もう少ししたら資料がまとまりますので、直ぐに部屋を片付けます」
「それがよかろう」
実はこの部屋、ハルコンのここ最近のセイントーク領への多大な貢献に対し、褒美としてカイルズが用意した研究室だ。
研究室は、この世界の人々の目から見たら、カイルズの言うとおり、まさしく錬金術師のための部屋そのものだ。
12畳程の一室には、研究に必要な器材を全て買い与えて貰った。壁際の書棚にはたくさんの資料や書物が並び、テーブルの上には実験で使うビーカーやらが並んでいる。
中には精密顕微鏡のようにドワーフの親方に特注で作らせたものもあり、この世界の科学の最先端をいくものとハルコンは自負していた。
「この度、ウチの出入りの商人から、複式簿記? とやらを薦められてな。我が領でも採用することになったのだが、……オマエも、できれば目を通して欲しいのだ!」
「私が、……ですか? よろしいのですか?」
「あぁ、……オマエの目なら、安心して任せられる」
「ワカりました」
ハルコンは先日、その中年商人(女神様ご推薦の6人のNPC達のウチの一人)に「天啓」を送って、複式簿記の知識を伝えていた。
これまで単式簿記しか知らなかった商人にとって、ハルコンの放り込んだそれは、まさしく「天啓」そのものだったようだ。
商人はさっそく番頭達に号令をかけ、店中の帳簿の整理を始める手配をしたようだ。
『ご理解頂けたのなら幸いです。できましたら、セイントーク家にもご自身のアイデアとして、お伝え頂けますか?』
ハルコンの放り込んだ「天啓」に対し、商人は既存の会計システムに革命が起こると確信したらしい。
「はいっ、必ずやお伝えいたしましょうっ!」
そう天に向かって叫んで、何度も頷いていた。