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ハルコンが、その禁忌について不穏な気分に苛まれていたところ、……。
心の間隙を縫って、突然、……どうしようもない程の悪寒に襲われることになる。
ハルコンの双眸は、とある人物を偶然捉えていた。
目まぐるしい街の人々の往来の中に、前世の晴子を殺害した、あの賊にそっくりの男が歩いているのを目撃したのだ。
「!?」
その男に、目立つ特徴はない。あえて言えば、全身黒尽くめの出で立ち位か。
ハルコンは、全身の毛穴から汗が噴き出すような気持ちになり、肋骨の隙間を指で強く撫でられる様な不快に、思わず強い吐き気を催した。
だが、ハルコンは天敵を目にしてもなお、本来の科学者の目を失ってはいなかった。
常人ならざる観察眼で、その黒尽くめの男から感じ取れる違和感を、探し当てていた。
何しろ、その男には本来あるべき人間のオーラが少しも感じ取れなかったのだ。
ここで、ハルコンはひとつの確証を得る。
つまり、その男もまたNPCであるということだ。
予期せぬ程、急速に込み上げてくる負の感情。
前世の私は、NPCに殺されてしまったというのか?
一体、何故? 誰が? 何のために血も涙もない殺し屋のNPCを雇ったのか?
私は、全人類の人生を幸せで豊かなものにする万能薬、エリクサーを生み出すことに生涯を費やした。
そんな人間として当然の目標を、敵対者達がNPCに命じて潰してしまったのだ。
今度、このファルコニアと呼ばれる世界において、私、ハルコン・セイントークという精神と肉体は、幸いにも女神様のサポートのおかげで、NPCを自在に操る能力がある。
なら、今の私に何ができるのだろう?
それは、……私の天敵を追い詰め、殲滅することだよね!
ハルコンは激情に飲み込まれながら、その黒尽くめのNPCの精神に向けて、フルダイブを開始する。
はやる気持ちで思念の周波数を探り、最適な通信状態に合わせて操作する。
すると、明瞭に、そのNPCの視界が見えてくる。
更には、インストールされた悪意や猜疑心、殺人への躊躇のなさなど、極めて非道な心の荒野が垣間見られた。
先日の、ホブゴブリンにフルダイブする以上に、気持ちが悪いっ!
ハルコンは、前世の晴子の仇を晴らすかのように男の心身を乗っ取ると、何の躊躇いもなく、人けのない街外れの水路まで歩いてゆく。