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ハルコンは速やかに領に戻ると、屋敷の自室にて、中学の理科で習うようなクレーンの図面を引いていた。
その日のウチにあらましを完成させると、ハルコンはドワーフの親方の頭の中に、さっそくその図面を「天啓」として放り込んだ。
「これでよし、と。後は父上が帰領したら、今回の王都からの勅令の詳細をお聞きしたいところだね」
ハルコンはそう独り言ちると、ふぅーっと長いため息を吐く。
翌朝、カイルズの一行が屋敷に戻ってきた。
「父上、移動でお疲れのところ申しワケありません。この度の王都からの勅令についてお訊ねしたいことがございます」
「ほう、何だね? 今回の普請に何か不明な点でもあるのかね?」
カイルズは、穏健な父にしては珍しく、ギロリと睨んだ。
なるほど。その声の調子と態度から、父上には何か思うところがおありのようだな。
勅令の詳細について訊くのは、また今度にしておこうかなとハルコンは思った。
「不明と申しますか、話が大変急に思われたものですから」
「まぁ、そうだな。だが、セイントーク領では女盗賊殿の采配もあって、獣人達が活躍しているから問題なかろう?」
「えぇ、確かに。ですが、隣りのシルウィット領は、現在工事が難航している状態です!」
「それはそうだな。ハルコン、オマエがそこまで言うのなら、何かいい策があるのだろう? 聞かせては貰えないか?」
「はいっ、もちろんです、父上!」
ハルコンは、先程よりドワーフの親方に思念を同調させていて、どうやら昼過ぎには、クレーンのミニチュア模型を屋敷まで持ってきて貰えそうだ。
さっそく午後、親方の操作で、クレーン技術というこの世界では全く未知の仕組みを、カイルズの目の前で実演してみせた。
「ぬぅーっ。これは凄いな!」
思わず目を見張るカイルズ。
「父上、今シルウィット領では慢性的な人手不足で、労働力を欠いている状態です。セイントーク領からも獣人の人員を送り、このクレーンの技術も直ちに導入すべきかと思います!」
ハルコンの気迫が通じたのか、カイルズはふぅっと小さく息を吐いた。
「ハルコン。オマエは、この画期的な運搬技術をクレーンと呼ぶのだと知っていたのか?」
「はい。親方から教わりました!」
ニコリと笑うハルコン。親方も慌てて頷いている。
「うむ。ローレル卿には、我が領からも増援を送ろう。今回の普請工事で一番距離が長いのが彼の領だ。さっそくで悪いが、親方も現地に向かってくれ! 向こうの技術者達に、そのクレーンとやらの設置方法、使用方法等を説明して貰いたい。これでいいかな、ハルコン?」
「はいっ」
ハルコンと親方はニコリと笑って頷き合うと、親方は直ぐにシルウィット領に向かう準備を始めるため、部屋を出ていった。
ハルコンも一礼して部屋を出ようとしたところ、
「オマエには、もう少しだけ話がある」
そうカイルズが言うため、そのまま子供っぽく席にストンと着いた。