* *
ハルコンはとっさの判断でミラの肩を掴むと、草木の陰に、共にサッと身を隠した。
おそらく、ゴブリン達はまだ気付いていないはず。
その判断のとおり、3体のゴブリン、いずれもハルコンとミラの存在に反応する気配はないようだ。
それよりも、問題はミラだ。
普段の彼女はあんなにも勇ましいのに。でも、今の彼女は小さく震え、顔色も真っ青になってしまっている。
確かに、目の前の3体のゴブリン達は石斧や短い石槍といった武器を持っていて、大変危険だとは思うんだけどさ。
さて、これからどうしようか?
この場から上手く逃げ出すか、……それとも闘うか?
まぁそうだな、……ゴブリン達にもNPCがいるのなら、精神の乗っ取り、フルダイブも可能なんだけどさ。
さて、どうだろう?
いずれにしても、ミラ次第かなぁとハルコンは思った。
すると、漸くミラも勇気を振り絞って身構えた。
体の震えも収まり、頬も紅潮し、目にも力の入った、いつもの彼女だ。
「偉い偉い!」
ハルコンはそう言ってミラの頭を撫でてやる。
「くすぐったい、ハルコン」
ニシシと、取り繕って笑うミラ。
「さて、……と」
ハルコンは、するりとゴブリン3体の傍に歩み寄り、そのウチの2体を合気道の技で、初手で地面に叩きつけてしまった。
「!?」
ハルコンの、あまりに無駄のない動きに目を見張るミラだが、……直ぐに彼女も落ちていた長い枝を拾って、薙刀の要領で残り一体を倒して気絶させてしまった。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、……」
彼女にとって、生まれて初めての戦闘。それも自分達よりも少しだけ背の高いゴブリン相手の戦いに、彼女の精神は極限まで追い詰められてしまっていたようだ。
「よくやったね!」
ハルコンの優しい言葉にも、肩で荒い息をして返事ができない。勝利したとはいえ、顔面蒼白状態に陥っていた。
「ミラ、これは2人だけの秘密にしようね!」
穏やかな声の調子だが、ハルコンは厳しくそう告げた。
さもないと、大人達からもう危険だから外に出るなと言われてしまうから。
「2人だけの秘密……。ワカったわ、ハルコン!」
ミラは、鉄の味のする唾液を飲み込んだ。
もしかすると、これから2人だけの秘密が少しずつ増えていくのではないだろうか?
ミラは、そんな風に思い至ったのかもしれない。
ハルコンに手を貸されて、ミラもまた笑顔で立ち上がった。