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「ねぇハルコン、……これって魔道具なの?」
相変わらずレンズに目を当てたまま、覗き込んでいるミラがそう訊ねてきた。
「いいや。仕組みさえワカれば、誰にでも作ることのできる便利グッズだね」
「ふぅ~ん。これもドワーフの親方に言って作って貰ったの?」
「そうだよ。親方は、どんな物でも頼めば作ってくれるんだ」
ハルコンは、ミラがいつになくやたらと訊いてくるなぁと、ちょっと怪訝に思った。
「でも、ハルコンはこれの仕組みを知っていたんだよね? ねぇ、どうして?」
「……、どうしてって」
ミラの声は、いつになく真剣そのもの。
ハルコンはどう答えるべきか、適切な言葉が思い浮かばない。
「ねぇ、ハルコン。私達が生まれる少し前に、女神様から夢のお告げがあったんだって!」
「夢のお告げ?」
「『本日、我が御使いを地上に遣わしました』
『その者の齎す光は、夜の闇すら昼間のように明るく照らし出してご覧に入れますよ』
『さぁ皆さん、その少年と共に、世界を大いに盛り上げて参りましょう!』とね」
「……」
ハルコンは、女神様が自分のあずかり知らないところで、どれだけハードルを上げて下さるのかと、思わず苦笑いせざるを得なかった。
「父上が私に仰るの。ハルコンが神の御使いなのではないかと」
真剣な顔つきで、ハルコンの目をじっと見るミラ。
「私は人間だよ。至って普通の、よくいる貴族の3男坊さ!」
ハルコンの取り繕った笑顔を、黙って見つめているミラだったが、
「まぁいいわ。ハルコンが神の御使いだろうと、何だろうと私のハルコンだもん。だから安心してっ! 私はずぅーっと、あなたの味方だからっ!」
そう言って胸を張ると、白い歯を見せて笑った。
ハルコンも、ホッと胸をなで下ろす。
それからも2人は変わらず行動を共にし、お互いの関係は極めて良好だ。
そのウチ、屋敷の敷地内の土壌サンプルを粗方取り尽くしてしまうと、今度は2人だけで内緒で屋敷を抜け出して、領内の森に入ってサンプルを集め始めていた。
「ミラッ、気を付けて! 追っ手がいるよっ!」
「うん、ワカった!」
途中、ロスシルドの手の大人達が、相も変わらず監視していることに気付く2人。
そこは抜け目なく、監視者達のホンのわずかの隙を突いて、2人は脱兎のごとく走り逃げた。
「やったね! ハハッ!」
「だね。やった、やった、ハハハッッ!」
子供らしからぬ阿吽の呼吸で追っ手を出し抜いて撒いてしまうと、してやったりの表情でお互いに笑い合う。
そんなある時のことだ。森の中でも屋敷に近く、通常では魔物もいないため安全とされているエリアで、ハルコンとミラは3体のゴブリンとニアミスすることになる。
おそらくは、群れからはぐれてしまったであろうゴブリン達。
ハルコンは、ミラがいつになく恐怖に震えていることに気が付いた。