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率直に言って、最近のミラは、どうやら私にデレデレなのかもなぁと、ハルコンは思っている。
だってさ、……彼女、週の半分はセイントーク領に入り浸りなんだからね。
愛くるしい笑顔で、「ハルコン、ハルコン」と私の名前を何度も呼んで、私の言うことを喜んで受け容れてくれる。
まさか、私の信者っていうことはないと思うけど。
でもさぁ、相当に慕ってくれているんじゃないのかなぁとは思うんだよね。
何しろ、私のやること為すこと全てに対し、興味津々な様子でじっくりと付き合ってくれるんだからね。
だったら、私も張り切っちゃうよ! なぁんて、ハルコンも満更でもなかった。
「とりあえず、ミラ。このピーラーっていうグッズ、キミの屋敷に持ち帰って試して貰えるかな?」
「うんっ、ワカった! このピーラー? さっそく試してみるねっ!」
ハルコンが他にもドワーフの親方に作らせた様々な便利グッズをミラに渡すと、彼女は今回も嬉しそうに受け取った。
どうやら、積極的にシルウィット家でそれらを使ってくれる様子だ。
「できれば自分達だけでなく、屋敷の使用人さん達からも広く感想や意見を集めてきてねっ!」
「うんっ!」
ハルコンもミラの持ち帰ってくる様々な感想によく耳を傾け、そのグッズの改善点を考えたりして、フィードバックに励んでいた。
そんな具合で、シルウィット家の当主ローレルもハルコンに一目置くようになった。
少しずつではあるが、アドバイスを求められる機会も増えてきているのだ。
ある日のことだ。
季節も秋口になり、シルウィット領を流れる大河に訪れたハルコン達。
「へぇーっ、凄いっ!? 大量のサケですねっ!」
「あぁっ、これはウチの領、秋の特産品になるんだ! 先ずは見て貰おうかな!」
「はいっ!」
ローレルは、ハルコンから率直に意見を聞こうと、今回招いていた。
川を遡上する大量のサケを集めると、さっそく3枚におろし、塩水にさらすと、切り身を寒風の下干すよう手配する。
まぁ、ここまでは通常の干物づくりと同じだなぁと、ハルコンは思った。
どこの領でもやっている作業工程であり、そこに付加価値の生まれる要素は見当たらない。
「サケの下拵えは終わったけれど。これからどうするの、ハルコン?」
ミラが不思議そうに訊ねてくる。
「桜の木のウッドチップで、燻して匂いを付けるんだよ!」
「へぇーっ。燻すの? 何だか焦げ臭そう!」
ミラは、そんなのでいいのかなぁといった表情を浮かべている。
「ローレル卿、……今回は、燻蒸器なるものを用意して参りました!」
前世の晴子の知識を使って、これまたドワーフの親方に作らせた逸品だ。
「ふぅ~ん、燻蒸器ねぇ~っ!」
横からミラが率直な感想を述べていると、ローレルは難しい顔つきで、「では、さっそく始めてくれっ!」と指示を出す。
使用人の大人達は、ハルコンの助言を聞きながら、用意したサーモンの切り身を燻し始めた。