「ハルコォーン、こっちこっちぃ。お店の前、人が沢山並んでいるよぉーっ!」
ミラの明るく楽しそうな声。ハルコンとミラは、お好み焼きの屋台の方に駆けてゆく。
最近の2人は、領都の街市場に顔を出しては、順調にウォッチングをこなしていた。
それは、ハルコンの前世の記憶で生み出される様々な料理やお菓子が、市井の人々に如何に受け容れられているかをじっくりと観察するためだ。
ここ最近、市場に出したのがお好み焼き。ソースによく似た調味料がこの世界にもあったため、マヨネーズのレシピを領のお抱えシェフに渡して作らせたのだ。
後はお好み焼きの主な材料である小麦粉とキャベツ、豚肉、玉ねぎだけど、そのいずれもこの世界には普通に存在するので、直ぐに用意することができた。
さぁて、どうかな。お客さん、たくさん並んでいるみたいだけど、受け容れられるといいよね。ハルコンは挑むような気持ちで様子を窺う。
屋台に近づくと、程よく熱の入った鉄板に焦げたソースの匂いがして、それが非常に食欲をそそられる。
並んでいる人々は、老若男女様々だ。
「ねぇ、どうかな? これ、お好み焼きって言うんだけど」
ハルコンは、屋台の近くのテーブルで食べているカップルの若者の男性に、率直に訊いてみた。
「ハルコン様っ、これ相当美味いですっ! このマヨネーズ? とソースが合わさった味に豚肉の脂、キャベツと玉ねぎの甘さが加わって、もう最高ですっ!」
「ほう、そうですか。なるほど、なるほど」
「小麦粉の生地の柔らかさ加減が、絶妙だと思います」
「なるほどぉ、なるほどぉ、……」
一緒にいた女性も嬉しそうに感想を述べてくるので、ハルコンも自然と笑みがこぼれた。
どうやら、かなり評判がいい。行列ができるのも納得だねと思った。
今回、ハルコンとミラの他に、護衛で一級剣士が同行している。不測の事態に備えて配置しているのだが、彼の眼を通してみても、特に危険な輩はいない様子。
実を言うと、ひとつ気がかりなことがある。
ここ最近、ミラの直ぐ近くで、彼女のことを監視する輩がいるということ。
「間違いなく、ロスシルドの手の者であろうな!」
一級剣士がそう見抜くとおりなら、差し当って危険な連中ではないと思うのだが。
でもさ、これって明らかにミラ目当てのストーカー行為だよねっ!!
最近、ハルコンの目から見ても、日増しに愛らしくなっていくミラ。
おそらく、ロスシルド伯長男のノーマンが駄々をこねて、手下に見張らせているんだろうね。これまで散々見下してイジメてきたクセに。ホンと、どうしようもないヤツだな!
「もぉう、一体何なのよアイツッ! 隠れてコソコソと卑怯ったらないわっ!」
プンプンとよく怒るミラだが、まぁ、……今のところほとんど実害らしいものはない。
でもさ、どうしよっか? このまま放っておくワケにもいかないしなぁ、……。