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「ハルコン様。そろそろお茶を召されては如何でしょうか?」
先程より待機していた女給メイドの年長の方の者が、穏やかに声をかけてきた。
「うん、そだね。ミラも休憩にしない? 甘いものを用意しているんだ!」
「甘いものっ!?」
思わず、ミラの顔がパァーッと華やいだ。
実は、この世界では砂糖は大変希少で高価であり、上級貴族家でもなかなか手に入らない品物だ。シルウィット家のような子爵家では、到底手に入らないものと言えた。
ミラはちらりと一級剣士を窺うと、「せっかくだから、頂くといい」と言って笑顔で返された。ミラは、目を輝かせてハルコンを見た。
「なら、これで稽古は終わり! さっそくお茶にしよう!」
ハルコンは、期待に溢れた表情のミラを伴って控室に移動すると、直ぐに女給メイドの淹れた紅茶でホッと一息吐いた。
ミラの目の前には、乾燥果実入りのクッキーやビスケットが多く並ぶ。
「どうぞ。たくさんあるから、遠慮せずどんどん食べてね!」
「頂きます!」
飴と鞭ではないが、ハルコンは、ミラにはご褒美が必要だと思った。
ただ、今回ハルコンの用意したのは砂糖ではなくて、芋から作った水飴を使用している。
「どうかな?」
「ほっぺたが、……蕩け落ちそう」
どうやら、ご満悦のようだ。
「このクッキーだけど、砂糖ではなくて、芋の水飴から作っているんだ!」
「芋って、そんなものから甘味ができるの?」
「うん。実はこれなんだけどね」
陶器に入った半透明の茶色の水飴。初めて見る形状に、ミラは不思議そうな顔をしていたのだが。
「とりあえず、一口食べてみない?」
ハルコンはスプーンで小皿に装って、ミラに差し出した。彼女はさっそく口に含むと、
「ンーーーン、甘いっ!? これって、ホンとにお砂糖使ってないの?」
「芋を煮詰めて、簡単に作ることができるよ。レシピ教えようか?」
目を見張って、ミラはこくこくと頷いた。
「芋を高温ですり下ろして粥状にして、数時間保温すると糖化するんだ。後はそのペーストを何度か綺麗な布で濾したら、半透明状の水飴になるんだよ!」
ハルコンは諳んじながら、和紙にサラサラとその作り方を書いていく。
「はい、これ!」
ニッコリとハルコンが手渡すと、ミラは「ありがとう」と言って、嬉しそうに受け取った。
* *
ここ最近、ミラは一日おきにセイントークの屋敷にやってきては、ハルコンと共に過ごしている。姉のサリナが王都の学校に入学しているため、ミラは丁度いい遊び仲間だ。
ハルコンは、水飴を使ったプリンをおやつに出して上げたり、似顔絵を描いて上げたりと、ホンともう至れり尽くせりでミラに接している。
2人は王立学校に通う年齢まで、もうしばらくの間、この生活を続けることになった。