* *
「そこまでっ!」
一級剣士が、よく通る大きな声で制止の仕切りを入れた。
精も根も尽き果てて、へとへとのミラ。床に手を衝いて、肩でぜぇーぜぇーと荒く息をしているのだが。
でも、ハルコンはニコニコと白い歯を見せて笑っている。
柔和で碌に喧嘩もできないタイプ。優しそうな貴族の坊ちゃん。
ミラはそんな印象の少年に、まさか負けてしまうとは思ってもみなかったのではないかなぁと、……ハルコンは彼女の苦り切った表情から察していた。
「ねぇ、ミラ嬢。次は槍術を見せて頂けますか?」
「えっ!?」
もうどこにもそんな力など残っていない。息をするので精一杯という様子のミラに、ハルコンは平然とニッコリ微笑んだ。
「実は私、……ウチの領内のドワーフの親方に、新しい武器を作って貰いまして」
ハルコンはそう言って、木製の柄の先端に短めの木刀の付いた武器を見せた。
「それは、槍でしょうか?」
掠れる声でミラが訊ねた。
「ハルコン殿、その武具は我も初見なのだが、……はて、一体それは何なのだ?」
一級剣士も、興味深そうに訊ねてきた。
「これは薙刀といいます。私にとって、最強の武器と言っていいでしょう」
そう言うと、ハルコンはその薙刀という武具を、即興で振り回す演武を始めた。
しばらくの間、黙って見ていたミラだが。すると、段々気落ちした様子で俯いてしまった。
あれっ!? ちょっと何その反応!?
せっかくミラにいいとこ見せようと思ったのに!
ハルコンは慌てて演武を止めると、一級剣士が笑顔で顎の髭を弄りながら、「これは凄いっ! 我にも見せてくれるか?」と言って薙刀を弄りたがった。
「えぇ、どうぞ」
ハルコンがニッコリ笑って貸し出すと、剣士は嬉しそうに薙刀をハルコンのように振り回し始めた。
「ミラ嬢、……大丈夫ですか?」
ハルコンは意気消沈した様子のミラに、そっと訊ねた。
「私、まだ先生にそこまで褒められたことがないんです」
ミラが、ハルコンに力なく笑った。すると、彼女の大きな瞳から、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれてきた。
「ねぇ、……お互い良き友達になりましょう!」
ハルコンは、穏やかな調子で語りかけた。
「友達、……ですか?」
「そう、友達になろう! もう様付けなんてしなくていいから。お互い呼び捨てで、……どうかな?」
その提案に、ミラはしばし考えた後、
「よっ、よろしくハルコン!」
手の甲で涙を拭うミラに対し、ハルコンは力強く笑みを浮かべ、
「よろしくミラッ! これから私達は友達だっ!」
そう言って右手を差し出すと、彼女が立ち上がるのを手助けした。
「ねぇハルコン。私に体術と薙刀を教えて!」
「もちろんっ!」
それからの2人は、大の仲良しとなった。