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10 ミラ・シルウィット その2_02

   *          *


「ミラ嬢、ようこそお出で下さいました。本日は胸を借りたく思います。どうぞよろしくお願いします」


 ハルコンは、ミラに優しく丁寧な言葉で挨拶した。すると、その柔和な笑顔に、思わずミラは毒気の抜かれたような表情を浮かべた。


「えぇ、こちらこそ。私もハルコン様に胸を借りたく存じ上げます。どうぞよろしくお願いします」


 ミラも頭を下げて応じると、お互いニッコリ握手を交わす。


 その際、ハルコンはふと思った。

 へぇーっ。なかなかやるじゃん。子供なのに、剣タコを拵えているんだ。

 ミラの右手が、同年代の子供のそれに比べて、筋も硬く引き締まっているなぁと思った。


 ハルコンは彼女の鍛錬具合に素直に感心する一方で、前世の晴子の時分、薙刀と長弓と合気道を、3歳の頃から習っていたことを思い出していた。


 そう言えば私って、同世代の子供達の中でも、自分が一番強いと自負していたんだっけ。

 ふふふ。ミラも、もしかすると同じようなことを考えているのかな?


 現在、修練場にいるのはハルコンとミラ、一級剣士に女給メイドが2名で計5人。

 女給メイドの2人は、表向きは稽古の合間のお茶とお菓子の配膳係なのだが、……実は不測のケガの手当てをできる者として、ここに待機させているのだ。


 まぁ剣士が上手く立ち回ってくれるとのことなので、親達はそれで話を通してしまっているのだが。


 今回、ミラはハルコンにいいところを見せようと、とにかく強く意気込んでいた。

 そんなミラから漏れる雰囲気を、ハルコンは非常にかわいらしいと思った。


 彼は前世の晴子の時代、親から非常に多くの習い事を課せられていた。


 それは、普通の子供ではとても対応し切れない、非常にハードワークであったにも拘わらず、晴子はあっさりとその全てをパーフェクトにこなし、果ては身に付けてしまってさえいたのだ。


 そんな彼女の習い事のひとつが合気道。3歳の頃から道場に通い、亡くなる数年前には五段の段位を取得していた。


 ふふふっ。とりあえず、お手並み拝見だね。

 ハルコンは全身リラックスさせて、スーッと構えた。


 ミラは普段真面目に武術に取り組んでいるのだろう。ハルコンの雰囲気にただならぬものを感じたのか、口元をキュッと引き締めた。


「始めいっ!!」


 ハルコンとミラの間に立つ一級剣士が、よく通る大きな声で仕切りを入れた。


「イヤァーーーッッ!!」


 ミラはハルコン目がけて掛け声を上げると、縮地しながら近づいてくる。

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