ハルコンとミラの初顔合わせを行った誕生日会から、早くも数日が経過した。
ミラはハルコンからの直接の招きに応じ、家族を伴わず、単身セイントーク領に向かっていた。
もちろん、一級剣士がお目付け役で同行しているので、思念を同調させているハルコンは、ミラの様子をそれとなく探ることが可能だ。
本日彼女の家族が同伴しないのは、あくまで子供同士の遊びのお誘い、……周囲にはそう思わせるためであった。
シルウィット家の動向は、おそらくロスシルド家が絶えず探っている。ミラがセイントーク家に嫁ぐのは、ロスシルド家としてはどうしても避けたい話だ。
だから、阻止できるのなら、多少のムリをしてしまいかねない恐れすらあったのだ。
道中の馬車の中、ミラは本日の面会を何としても成功させようと、終始緊張した面持ちでいた。
「ミラ嬢、……まぁ、そんなに固くなることはない。ハルコン殿はモノのワカった少年だ。いつもどおり素直に明るく接すれば、自ずと仲良くなれるものと断言しよう!」
「はい。善処します、先生」
護衛兼お目付け役の一級剣士は、ミラにとって畏敬の対象だ。
ミラは剣士の剣技だけでなく、その物事の捉え方や行いも含めて尊敬しているのだ。
表向きセイントーク家とシルウィット家両家の親達は、ハルコンとミラの2人には子供らしく、気さくに親睦を深められる機会を用意してくれた。
今回は、ミラの武術お披露目という名目のため、剣士に任せておけば万事上手くいく。そう両家の親達は考えているのではないかなぁと、ハルコンは思った。
セイントーク家の屋敷の片隅にある修練場にて、ミラは体術訓練用の軽装服に身を包むと、大きく深呼吸をする。
彼女の目標は、必ずハルコンと仲良くなること。彼から必要とされること。大切な存在と見做されること。その表情は、いささか硬すぎるキライがあった。
「ミラ嬢、……そう硬くされるな。いつもの柔らかい笑顔を浮かべておれば、何も問題なかろう!」
「先生、そうは仰っても、私は今日この日に賭けております故」
「ふむ、……まぁ、仕方あるまいか」
シルウィット家は武門の貴族だ。だからこそ、ハルコンを守る盾や鉾となり得る存在だとアピールしたい。
そういった並々ならぬ強い意志が、ミラの表情に如実に現れていた。