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誕生日会の始まる一時間程前に、シルウィット家は現地入りした。
現地は、女盗賊の手配で複数の者達で警備され、安全が保たれている様子。
「ほう。警備の者に獣人も使っているのか?」
「ですわね。私も驚きました」
ローレルとセリカが、感心したように頷いている。
ミラは、両親と共にプレゼントを抱えて屋敷の一角にある入場受付に向かう。
すると、もう既に順番待ちの長い行列ができていた。
シルウィット家は、領地を持つ貴族家とはいえセイントーク家よりも格下だ。
「とりあえず、並ぼうか?」
「えぇ。これだけ人が多いですからね」
ローレルの言葉に大人しく従うセリカとミラ。
「我はカイルズ殿と話がある故、先に上がらせて頂く」
「えぇ。では後ほど」
一級剣士はローレル達から一度離れると、会場の奥の部屋で待機しているカイルズ達に、シルウィット家が到着したことを伝えに向かった。
剣士と入れ替わりで、女盗賊自らがシルウィット家の警護を担当する。
「へへへ、ローレル卿。お久しぶりでやす」
「おぉっ、女盗賊殿か。久しいな!」
朗らかに応じる子爵。その表情は、とても魅力的だ。
ハルコンが女盗賊に思念を同調させていると、いつもよりも体温、心拍数共に非常に高くなっているのが感じられた。
おそらく、彼女は耳先まで真っ赤にして話をしているのかもなぁと思った。
「ローレル、こちらの女性の方は?」
セリカが訊ねてきた。
「女盗賊殿だ。セイントーク領の傭兵部隊、警備担当、職業斡旋所を運営する、有数の実力者だよ!」
「そうでしたか。私はローレルの妻、シルウィット子爵夫人でございます。どうかよしなに」
そう言って、女盗賊に対し、気さくな笑顔で深々と頭を下げるセリカ。
「よ、よしておくんなまし、奥方様。アタイのような女に、お貴族様ぁ頭ば下げちゃぁイケねぇでやすっ!」
「あらそう? なら、これからもよろしくね!」
セリカは、元平民らしく気軽に微笑んだ。
そのままシルウィット家の3人は、しばらく列の最後尾に大人しく並んでいた。
すると、真面目に列に並ぶことなく、ずかずかと会場に入っていく家族がいる。
ロスシルド伯夫妻と長男のノーマン、その3人だ。
「うわっちゃっ。ノーマンがいるよ」
ミラが、思わずウンザリした目付きで小さく呟いた。
ノーマンも気づいたのか、立ち止まってミラにベロベロバァーをする。
当主のジョルナムは、女盗賊にしてやられたら堪らんと思ったのか、苦虫を噛んだ顔で「ほら、いくぞっ!」といって息子を促すと、サッサと会場入りしてしまった。