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09 ミラ・シルウィット その1_06

   *          *


 ここ数年、セイントーク領からシルウィット領に派遣されている中年の一級剣士。

 彼は、シルウィット領内の警備の補助、軍事のアドバイザー顧問という役職で、大いに活躍している。


 一級剣士は、これまでに培ったノウハウを惜しげもなく投入し、領を安定化させることに大きく貢献。そこはカイルズの目論見どおり、大変上手くいったと言えよう。


 シルウィット領は警備、軍事の底上げに成功すると、少しずつ内政面でもカイルズの助力を得つつ、改善に励んでいる最中にある。


 最近の一級剣士は、専らシルウィット家の護衛を担当するようになっている。

 ミラが大きくなり、剣術の家庭教師を引き受けると、彼女からの信頼も厚くなっていた。


 ハルコンは一級剣士の思念に同調することで、ミラのこともかなり詳しく知っているつもりだ。

 彼女の人となりや性格は、とても良い。実に真面目で素直で明るく、親家族や家臣、領民思いのいい子だというのがハルコンの認識だ。


 ミラとは直に会って話がしたい。できれば、私の友達になってくれたらなぁと思う。


 そんなタイミングで訪れた、ハルコンの誕生日会という、近隣の有力者達の集う中規模のイベント。

 その催しには、貴族や大中商人、庄屋、豪農達が、子供達を連れて奮って参加することになるのだろう。


 シルウィット子爵家も、当主のローレル、奥方のセリカ、一人娘のミラが参加。道中の馬車には、護衛として一級剣士も同乗している。


 ハルコンは、一級剣士の目を通して、シルウィット家の様子をつぶさに観察していた。

 ミラは子爵家の馬車でセイントーク領に向かう途中、両親の様子をそのつぶらな瞳でじっと見つめていた。


 経験が浅くまだ若いシルウィット夫妻。2人の表情を見ていると、セイントーク家から、何としても好印象を得ようと意気込んでいる様子が窺える。


 ハルコンは、ミラがそんな親の期待に応えようと、幼いながらに考えているのではないかと思った。


「ミラは利発で、とってもかわいいから。だから大丈夫よ、ローレル!」


 ミラの母セリカも、ローレル同様、かなり緊張した面持ちで臨んでいる。

 すると、……フッと、ミラの表情がどこか冷めたような、大人びた光を一瞬宿した。


 おそらく、ミラにしてみると、これは彼女自身の将来に関わることなのだが、その両親の並々ならぬ期待の大きさに、かえって冷静な気分にさせられてしまったのではないか。


 ハルコンは、ミラという少女が、思った以上に貴族の一員として達観しているんだなぁと、少々気の毒に思った。

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