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「これ以降の映像は、昨晩録った分ですね。シルウィット家の屋敷での一部始終を収めたものになります」
ハルコンは、女神様がニコリと微笑みながら、もっとよぉ~く見なさいと勧めてくるため、ガジェットのモニターに幾分身を寄せつつじっと見る。
「そう言えば、来月の初頭、ハルコン君の誕生日会が催されるのでしたね?」
「えぇ、まぁ、……。私はあまり大袈裟にやらなくても構わないと思っているのですが」
「でも、ハルコン君。周りの人は、必ずしもそうは思っていないんですよ」
ハルコンは女神様と話をしつつ、映像にじっと目をやった。
『ミラ、来月行われるセイントーク家のご子息の誕生日会、オマエも必ず出席しなさい!』
『誕生日会、……ですか? それに出席すればよろしいのですね?』
『そうだ。ハルコン・セイントーク君、……伯爵家の3男に当たる少年だ!』
どうやら、ミラはローレルから誕生日会に参加するよう勧められているようだ。
『ハルコン様……、セイントーク家の』
『そうだ。ミラ、……ハルコン君はとても穏やかで、利発な少年だと伺っている』
『そうよ、ミラ。あなたにとって、将来とても大切な人になるかもしれないお子さんよ』
ミラの母セリカも、どうやら薦めてくれているようだ。
セイントーク家にしてみれば、近隣と仲良くするための方便のような催しに過ぎない誕生日会なのだが。
でも、ローレルにとっては、大事な娘の嫁ぎ先を決める重要なイベントと位置付けているようだ。
ハルコンの目にも、子爵の意気込みは並々ならぬものがあるように見受けられた。
今回、誕生日会に参加するよう父に告げられて、乗り気でなさそうなミラ。
でも、武家の貴族の女として、父には決して逆らえないのだろう。
また今度もおかしな相手だったら、思いっ切り張り倒してやろうとでも思っているのかもしれない。そんな表情をしているなぁと、ハルコンは思った。
「以上です、ハルコン君。この子の将来は、あなたにかかっているのですからね。責任重大ですよぉ!」
「はい、……善処します」
「よろしい! また折を見てこちらに参りますからね。では、またねー!」
「ははぁっ!」
畏まって頭を下げると、女神様は笑顔で手を振りながら、スッといらっしゃらなくなった。
「ふぅ~っ」
思わず緊張の糸が切れて、姿勢を崩して腰かけていると、サリナが目を覚ました。
「ねっ、姉様、……」
「やだわ、私寝ちゃってたのね?」
「どうやら、……そのようですね」
ハルコンは内心ドキドキしながら、姉の表情を窺っていた。
「いいわ。内緒にしておいてあげる」
「えっ!?」
「あの方は、女神様なんでしょ? お父様にも、お母様にも内緒にしておいてあげる」
「姉様、……」
「それにしても、とっても美しくて優しそうなお方だったなぁ。私、憧れちゃう!」
とりあえず、姉はこのことを黙っていてくれるらしい。
まぁ、……バレたら、その時はその時なのだが!