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女神様の用意したガジェットのモニターには、その後の顛末が映し出されていた。
『うっわぁ~んっ! 女の子のクセに、ボクのことをミラが打ったぁっっ!』
『してないもんっ! 私叩いたりしてないよぉっ!』
泣き喚く少年の訴えに、必死になって抗弁するミラ。でも、大人達はこぞって立場の強い少年の味方となっている。
『してないもん……』
ミラは子供なりに自らの地位の低さ、説得力のなさに、思わず悔しさが込み上げてきたのだろう。
でも、今にも泣き出したいのだが、彼女の高潔なプライドがそれを許さないのではないかと、モニターを見ながらハルコンは思った。
『ほらっ見てよ。ミラのヤツ、真っ赤になって怖い顔してるっ!』
薄汚く大人に平気で助力を求める少年を、ハルコンは本気で殴りたくなってくる。
「晴子さん、この映像は先日のものです。ミラ嬢は、ロスシルド伯爵の求めに応じたシルウィット子爵の言い付けで、仕方なく少年と茶席での面会を行っていた際に起こった出来事です。ちなみに、この少年の名はノーマン・ロスシルド。ロスシルド家の長男で、ミラ嬢よりもひとつ年上の男の子ですね」
ハルコンは、思わず苦虫を噛み下すように、内心メラメラする気持ちを抑えながら、その映像に釘付けになっていた。
ハルコンの目には、庭園に設けられた席で歓談している両家にあって、ノーマンのやること為すこと傲慢で非常に幼いものに思えてならなかった。
一方、おそらく両親から厳しく躾けられたであろうミラは、まだ幼いにも拘わらず礼儀正しく、とても知性的に見受けられた。
だから、ノーマンのクソガキは、ミラ嬢のことが酷く癇に障ったんだろうなぁと、ハルコンは思う。
映像を見ていると、ノーマンはミラを見下して子分にしようと思い付いた様子で、居丈高な様子で彼女の髪をグイッと掴んでいる。
ハルコンはその場に飛び込んでいって、地位も名誉も貴族の尊厳もかなぐり捨てて、ミラを助けてやりたいと思ったのだが。
でも、これは数日前の映像だと女神様が仰っている。
映像では、即座にミラは反発してノーマンを突き飛ばしてしまうと、彼が泣き喚いて大変であった。
「ふん、ざまぁみろってんだ!」
思わず胸のすく思いで、ハルコンは叫んでしまった。
「あらっ、晴子さん。随分ミラ嬢に肩入れされるのですね?」
「そりゃぁそうです。こんないい子、滅多にいませんからっ!」
「ですよねぇ」
映像では、その席にはローレルも同席していたものの、平民上がりの新興子爵家だ。
悲しいかな、名門の伯爵家相手に抗議できようはずもない。
『まぁ子供のすることですから。子爵からも、娘さんにしっかりして貰うよう伝えて下さい』
ジョルナム・ロスシルド伯爵の、まるでミラが一方的に悪いかのような言い草。
ローレルは、その場で煮え湯を飲まされたように真っ赤になるも、ぎりぎりで堪えている様子が窺える。
ミラにも父の悔しさが伝わったのか、黙って涙を飲む様子が映し出されていた。