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「ワカりました。では、遠慮なく私の意見を述べさせて頂きます」
「えぇ、どうぞ」
女神様は、ハルコンの内心など先刻ご存じのように、ニッコリと微笑まれた。
「ミラ嬢の父君ローレル・シルウィット卿は、ファイルド国東方3領のひとつを治めている新興貴族家の現当主です。シルウィット家は、先々代に戦で手柄を立てたことで貴族となった、元平民の一族です。そのためか、貴族としての責務をとても重視する傾向が強く、武家の誉れを第一としている家柄と言えます」
「なるほど、……続けて下さい」
「一方で、シルウィット家は治世、特に経済に疎くノウハウがありません。ローレル卿は貴族社会における世渡りも同様に苦手としており、隣領のロスシルド家からの嫌がらせにも、適切に抗し切れていない現状と思われます。ですが、我々セイントーク家とは積極的に交流していらっしゃいます。温厚な父カイルズに、いささか頼り過ぎのキライがありますが、これにはむろん我が一族にも十分メリットあってのことと言えると思いますね」
「それってつまり、セイントーク領の防衛力は元々貧弱で、最近は女盗賊さんの指揮の下、傭兵団を組織しているとはいえ、まだまだ急造の感が否めない。故に、戦で成り上がったシルウィット家とは、とにかく友好的な関係にあるのがいい。そんな判断が為されているのですね?」
「はい。両家にとって、お互い親戚関係になることこそ、一番メリットがあると言っていいと思われます」
「なるほど。でもねぇ~っ、ハルコン君。そんな貴族的な建前は、この際ノーサンキューですから。ねぇ、ざっくばらんに、……晴子さん的には一体どうなんですか? もっと本音で話し合いましょうよ、ねぇっ!」
「私、……的にですか?」
そうは言ってもなぁ。どこまで本音で話すのが正解なんだろう?
まさか、女神様相手に、ガールズトークで花を咲かせるワケにもいかないんだろうし。
ハルコンが何だかんだ言葉に窮していると、女神様はいつぞや見せてくれた、天界のガジェットを懐からごそごそと取り出してきた。
「晴子さん。一度よぉ~く、こちらをご覧になって!」
その機器のモニターには、ミラ嬢が同じ位の年齢の少年に髪を引っ張られたり、小突かれたりしてイジメられている様子が、まざまざと映し出されていた。