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「ハルコン君。ミラ・シルウィット嬢のことはご存じだったかしら?」
満面の笑顔で、女神様がそう訊ねてこられた。
「え、えぇ、……隣領のご息女と伺っています。まだ直接会って話をしたことはありませんが、どうやら素敵な少女のようですね」
ハルコンは、相手の様子を窺いつつ、言葉を最小限に話すことにした。
「そうっ、ミラ・シルウィット嬢はね、とってもいい子なのっ! 子爵家の一人娘として、愛情たっぷりに育てられてきたんですよっ! あなたより3ヶ月遅れで、もう直ぐ6歳になるのかしら。ご両親に似て、非常に端正な顔立ちと容姿にも恵まれているのね」
「は、はぁ、……そうでしたか」
ハルコンは、以前の女神とのやり取りを、だんだんと思い出してきた。
そう言えば、次の世界では恋愛を楽しみなさいとか仰ってたっけ。
でもさぁ。そもそも、私は恋愛向きの人間ではないんだけどなぁ。
さて、どうやってその辺りをお伝えすべきなのかなぁ?
「……、色白だけど健康的な肌、銀色のサラサラとしたナチュラルボブの髪、そしてその前髪から覗くサファイアのように輝く瞳は、領の内外で専ら美しいと大変評判なんですよっ!」
「え、えぇ、……私も一級剣士の思念に同調させてますから、彼の目を通してミラ嬢の様子を窺っています。ただし、……」
「ただし、……?」
「私にとって彼女の真の素晴らしさは、その外見的な美しさだけではなくて、……むしろ、その心根の美しさにあるんだと思うんです」
「ほぉ、ほぉ~ん、確かに! 誰に対しても明るく気さくで、貴族の子女であるにも拘わらず尊大なところがない。ハルコン君にとって、彼女の第一印象は如何ですか?」
「素直で優しく凛とした子というのが、ミラ嬢の本質だと思います」
「いいですねぇ、いいですねぇ」
嬉しそうに頷いている女神様。
「ですが、私もミラ嬢も貴族です。庶民のように気軽に恋愛をすることは、到底叶いません」
「……、ですよねぇ。貴族って、何かと面倒ですからねぇ」
「はい、……」
ハルコンは、女神様の真意を探るように、頭脳を総動員して相槌を打つ。
「ハルコン君、貴族家の者として、シルウィット家のことをどう見ていますか? ざっくばらんに説明をお願いできますか?」
女神様が率直に訊ねてこられたので、ハルコンは自分の認識を正直に伝えることにした。
どうせ嘘もブラフも通じるような相手ではない。正直な意見こそ求められているのではないかと思われた。