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08 高まる名声_06

   *          *


 あれから数年。平和な日常が続くようになった頃、隣領の状況を報告しに、一級剣士が定期的にセイントーク領に戻ってきている。


 本日もその日で、カイルズとソフィアは、一級剣士からシルウィット領の雰囲気や状況、ありとあらゆることを細かに聞いていた。


 特に問題なのは、物資、財政の件についてだ。

 どうやら当主ローレルの経営は何とか帳尻を合わせている現状で、部下達もさ程優秀ではないらしい。


 コネ採用で官吏に登用した近隣貴族の3男坊達が、とにかくまともに働かない。

 その様子を一級剣士の口から直接語られると、カイルズとソフィアは思わず眉を顰めた。


 ハルコンは、今回もまた一級剣士の思念に同調することで、両親の様子を探っている。


「最近だが、隣領で横流しが発覚した。その尻ぬぐいに他の官吏達が余計に働いている状況で、……我には、とても目も当てられない次第と言えるか」


「ふむ、……」


 一級剣士の言葉に、カイルズは頭を抱え込んでしまった。


「あなた、……」


 ソフィアも、心配そうにカイルズの肩にそっと手を触れた。


「さて、……カイルズ殿、貴殿は我に何を求められるか? まだ現状では、ローレル殿と一部の官吏達の頑張りのおかげで、シルウイット領の存続も危ぶまれる程ではないのだが、……」


「一級剣士殿には、引き続き要人警護と領の軍事の補佐をお願いしたい。私はローレル殿を信頼している。それだけ伝われば、申し分ないだろう」


「了解した、カイルズ殿」


 ここで、3人はいったん緊張の糸をほぐす。


「ところで、一級剣士殿。ローレル殿の娘がすくすくと成長して、とても可愛らしいと噂が立っているのだが、……」


 カイルズは、少しだけ笑みを交えて話しかけた。


「ほう。ミラ嬢のことであるな?」


「確かに」


 ここで、一級剣士は顎に手をやってニヤニヤとすると、


「ミラ嬢は、おそらく東方3領一の美女となろう。性格も明るく活発で、とても優しく素直な少女であるな。将来は、近隣の貴族家全てから婚姻の申し出を集めることは間違いないな」


「それは、とても素晴らしいですね」


 ソフィアも優しく微笑んだ。


「我々セイントーク家は、将来ハルコンとミラ嬢を結婚させてはどうかと考えている。そのためには、シルウィット家が万事安泰であって貰わないと困るのだ!」


「ほう。ハルコン殿をミラ嬢と、……なるほど、それは良いお考えだ!」


 ここで、一級剣士は我が意を得たりとばかりに、大いに頷いた。


「とにかく、早いウチに、一度ミラ嬢とは会ってみたいものだな」


 カイルズの言葉に、ソフィアも同じ考えなのか笑顔で頷いていた。


 ハルコンは思った。私はまだ4歳になったばかりだぞ。貴族家って、こんな幼児の段階で将来の相手を決められてしまうのかと。

 でも、一級剣士の思念に同調していると、彼もまたカイルズの案に大いに賛成している様子。


 なら、ハルコン自身の考えはどうだろう?

 すると、自ずと見えてくることがある。


 剣士にとても懐いているミラは、屋敷内を絶えず付いて回っていて、その愛らしさや一生懸命な様は、ハルコンの目から見ても、なかなか魅力的で素晴らしい少女に思われた。


 とりあえず、一度直接会ってみてから。先ずは友人からスタートかな? 

 そうハルコンは考えていた。

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