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ハルコンが最近熱心に取り組んでいるのは、ドワーフの親方にアイデアを「天啓」として放り込むことだった。
前世の歴史の授業で教わった中世時代の発明品の数々を思い出しつつ、この世界に何を齎すのが一番最適かなぁと、常日頃頭を巡らせていたのだ。
その第一弾であるスクリュープレスは、カイルズとドワーフの親方が尽力することで、大量生産及び販売の目途が立った。
そんな矢先の、ハルコン誘拐。
セイントーク領に激震が走ったのは確かだが、……。
でもさ、これまでいくら何でも警備がザル過ぎたんだよね。
だから、カイルズが新しい商売や事業を始めるタイミングで、嫉妬に駆られた周辺貴族が、嫌がらせと実益を兼ねて凶行に及んだんだ。
結論的には、女盗賊の機敏な行動により、事なきを得ずに済んだ。
ハルコンが無事ケガなく帰還すると、家族達は涙を浮かべて喜んでくれた。
その後直ぐ、カイルズは今回の犯罪に関わった全ての者に対し、厳正な処分を下した。
ある者は家督を失い、ある者は打ち首に処した。
見せしめの意味も含めて、貴族まで処罰したのはいささかやり過ぎなのではとの声が、近隣各地で上がったそうだ。
そんな声に対し、家族に危害が及んだ時、セイントーク家は厳正な措置をする一族だとワカらせる必要があった。
通常なら報復される恐れもあった。だが、事件後カイルズは女盗賊に自警団と傭兵団を組織させると、万全な体制で臨むことになった。
これこそが、ハルコンがNPC達に思念を同調させて見た、騒動の顛末だ。
一方、セイントーク家の本業は経済だ。トラブルはあったものの、スクリュープレスの量産化に成功し、油豆の収穫までに何とか間に合った。
タイミングよく市場に投入することができた。
大変好評で、食用油の量産化、低コスト化、低価格化に成功したため、領の収入が急速に増えていくことになる。
そして、そろそろ次の発明品が待たれるところでもある。
再び春の季節を迎えた頃、ドワーフの親方が次に出したのが、馬車の板バネのサスペンション。
それと、馬の負担にならないハーネスの改良や、騎馬に取り付ける鐙といった安定具だった。
すると、いの一番で鐙が実用化された。
領内の騎士爵だけでなく、女盗賊の率いる傭兵団に向けて用意されると、領内の戦力が格段と上がっていくのだった。
「親方。こうも立て続けに新作を発表していくと、いろいろと問題が多く発生する。それ故に、しばらく自重して貰えないか?」
カイルズから、やんわりと注意されてしまう。
「タハハハ。ついつい張り切り過ぎてしまったぜっ!」
どうしても前世のクセで、周囲の期待に応えてしまうハルコン。そのため親方は、朝から晩まで一日中テンテコマイだ。
まぁ親方本人は、新しい造作を作る喜びに震え、寝る間も惜しんで作り続けているのだけれど。
一方、ハルコンは漸くハイハイができるようになって、家族を喜ばせていた。