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女盗賊の目から見て、室内は煌々と明るく、暖炉には薪がくべられて大変暖かい。
ハルコンが毛布に包まれたまま、穏やかそうに静かに寝息を立てているのを見て、ニコリと微笑んだ。
「おいっ、……あんまり、そのガキをジロジロ見んなっ! いいからこっちきて、サッサと酌をしろっ!」
夜盗の頭領が、怒鳴り声で話しかけてきた。
「はぁ~いっ」
女盗賊はシナを作りながら、笑顔で返事をする。
その際、ざっと室内の観察をしつつ、腰を振りながら色っぽく近づくと、ストンと男の膝の上に腰かけた。
「アンタが、この中ばいっちゃんど偉い人? ねぇっ、お金持ちぃ?」
くすぐったそうに笑いかける女盗賊。
そのあまりの美貌に、頭領はでれーっと鼻の下を伸ばしている。
「まぁなっ。ここで見たことは、一切他言無用なっ!」
そう言って、卑猥な笑顔で女盗賊の胸を揉みしだいてくる。
「もぉうっ。お酌ば先でやしょぉ? アタイ、強い酒ば飲むと、凄く昂るでやすよっ!」
ぺチンと男の手の甲を叩くと、ニマァッと淫靡な表情を浮かべて凄んだ。
「おいっ、オマエっ! いいから一番強い酒を持ってこいっ!」
「へいっ!」
さっそく、夜盗の頭領は手下の持ってきた陶器製の酒瓶を受け取ると、無理やり女盗賊にその火酒をラッパ飲みさせている。
しばしの間、彼女はグビグビと喉を鳴らしながら一瓶飲み尽くすと、
「おかわりぃっ!」
そう言って、ワンモアプリーズとばかりに手招きして、ニマリと笑った。
「面白れぇっ、もっとコイツに飲ませてやれぇっ!」
頭領は手下に命じると、直ぐに代わりの酒瓶を用意させた。
それを女盗賊は引ったくって、自分のペースでごくごくと勢いよく飲み始めた。
まるで蟒蛇の如き様子を、手下達は半ば呆然と眺めている。
「いい飲みっぷりだぜ、アンタ!」
頭領は、女盗賊のあまりの酒豪ぶりに、気分を良くしたように笑った。
「ひぃっく」
すると、女盗賊は酒瓶片手にしゃっくりをひとつして立ち上がると、……ふらふらと、暖炉の方に歩いていく。
「おぃおぃ、大丈夫かよぉ、あの女っ!?」
男達が失笑や苦笑いをして見つめる中、女盗賊もクスクスと笑いつつ、再び酒瓶に口を付けた。
彼女は口内に、たっぷりアルコールを含ませている。
すると、彼女はこれまた慣れた手つきで、暖炉から真っ赤に燃える炭を火箸で取り出して、男達の前に翳してみせると。
突然、ぷぅと酒精を吹きかけたのだ。
その瞬間、数メートルの紅蓮の炎が男達目がけて迫りくる。
炎は室内中を駆け回り、男達は衣服に火炎が纏わり付いたまま暴れ狂っている。
「「「「「ウギャァァ~~~ッッ!」」」」」
必死になって、床を転げ回りながら火を消そうと藻掻き暴れる男達。
「うふふっ、やだぁ、熱そうっ!」
女盗賊は口元に手を当ててクスクスと笑うと、悠々とハルコンの許に近づいて抱きかかえる。
「もぉう大丈夫ですよぉ、ハルコン殿ぉ」
女盗賊の酒臭い満面の笑みに、ハルコンも嬉しそうにキャッキャッと笑う。
「どうしやした、お頭ぁ!?」
炎が室内を走るのを見た子分達が、血相を変えて女盗賊の様子を見に飛び込んできた。
子分達は室内の様子を瞬時に把握すると、これまた慣れた手つきで、燃えてぐったりとした夜盗の男達を縄で縛り始めた。
「お頭っ、ここにお貴族様からの指示書の手紙がありやすぜっ!」
女盗賊は受け取ると、近隣の弱小貴族の家紋の封蝋が施されていた。
「ありゃま。ロスシルドではねぇでやすか。残念!」
「へい」
寡黙そうな子分の男が頷いている。
「まぁいいでやす。今頃、カイルズ卿やご家族ば心配してるはずでやす。オメェらっ、直ぐに帰っとすっぞっ!」
「「「「「オウッ!」」」」」
下手人を引き連れて、悠々と領都のセイントーク邸に向かう女盗賊達であった。