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瞬くウチに、半年程が経過した。季節は春と夏を終え、間もなく秋となる。
ハルコンは、相変わらずベッドから抜け出すことはできないのだが、赤子の不自由な身体にも漸く慣れてきたといった感じだ。
両親や兄姉達は、毎日代わりばんこにベッドの傍にやってきては、ニコニコと笑顔で見守ってくれる。
そんなある時のことだ。
「ハルコン、……あなたって、もしかして神の御使い様なの?」
姉のサリナが、笑顔で訊ねてきたことがあった。
「キャッ、キャッ、キャハッ」
もちろん、ハルコンは赤ん坊なので、返事なんてできるワケがない。
しばらく、じっと様子を見ていたサリナだったが、次にこう告げてきた。
「あなたが何者だろうと、ハルコンは私のかわいい弟なの。だから、何かあったら姉様に頼りなさいね」
それから、ハルコンの手にそっと優しく触れた。
ハルコンは、NPC達との接し方にも、次第に慣れてきたのかなぁと思ったりしている。
NPC達に様々な「天啓」を送り、適材適所にバランスよく作業が進むのを、思念を同調させながら確認する、そんな毎日。
ホンと、……今思うと目まぐるしい日々を送ったものだ。
最近では、NPC達が、セイントーク領や周辺各地で重要な役割を担うまでになってきている。
前世に引き続き、ハルコンはこの世界でも大変忙しい日々を送ることになってしまっているが、彼に後悔の気持ちは全くない。
元々ハルコンは、思考の並列作業を得意とする天才だ。
退屈なスローライフなど、最初から望んでいないのだ。
自分から役割を見つけ、粛々とこなしてゆく。それこそがハルコンの本質だ。
エリクサーの開発は、まだ道具が揃わないので諦める。
でも、そのウチだけど、……ドワーフの親方に「天啓」を送って、少しずつでもいいから前に進めていこう。
セイントーク領は、これから益々発展していくよ。
だからさ、……ひとつひとつ気を引き締めてかからないとね。
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秋が深まってきた、とある深夜。
馴染みの酒場で子分達と眠りこけていた女盗賊が、異変を察してパチリと目を覚ます。
「こは如何にっ!? 一体、何ぞっ!?」
突然叫び声を上げるので、子分達も慌てて目を覚ました。
「お頭っ、一体どうなすったっ!?」
そう訊ねつつ、子分達は不安そうに彼女のことをじっと見つめている。
「どうやら、ハルコン殿が夜盗の手に落ったようでやす。屋敷から誘拐されんちまったっ!」
「「「「「お頭っ!」」」」」
男達の怒声が、狭い酒場内に響き渡る。
「あぁっ! 舐めた真似ばしくさってっ! 皆殺しにしてやんすよっ!!」
女盗賊は、酔い覚ましに水を一気に呷ると、コップをタンッとテーブルに叩きつけるように置いた。
「いくでやす。オメェら、ついてこいっ!!」