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07 迫りくる危機_06

   *          *


「それでは女盗賊殿。貴殿には当分の間、盗賊稼業を休業にして貰いたいのだ!」


「よござんす。受け容れるでやす」


 カイルズの要請を受けた女盗賊は、着々と子分30名と共にセイントーク領に縄張りを作ると、新たな事業に乗り出していた。


 カイルズからの支援を受け、領都の商業施設の一隅を借りると、日雇い人夫向けの職業斡旋所を運営するようになっていたのだ。


「カイルズ卿、アタイにばっかりでっけぇチャンスを貰えて、だけんど、これまでずっと職にあぶれていた連中がいるんでやす。そいつらにも、チャンスを与えてやれねぇでやすか?」


「ほう。あぶれている連中か?」


「えぇ、獣人達でやす。アイツらには、致命的なことに文字も読めねくば、数字も30までしか数えられねぇ、木偶の坊でやす」


 ハルコンは女盗賊に思念を同調させていると、彼女が自分よりも立場の弱い獣人という人種に、強烈なシンパシーを抱いていることがひしひしと感じられた。


 なるほどね。女盗賊さん、さすが義賊と呼ばれるワケだな!


「それ故に性質の悪ぇ商人にば騙されたり、マンズぃ契約を結ばされたりと、とにかく散々な目に遭ってるんでやすよ」


「なるほど。なら貴殿は、どうしたいかね?」 


「アタイは、そんな汚ねぇ手口をぜってぇ行わねぇでやす。労働者ば真っ当な権利ばして、適正ぇな労働環境、労働時間、賃金をば提示すって、人集めをばおっ始めたいでやす」


「いいだろう。獣人達は概ね身体能力が高い。彼らの多くを領内の傭兵として新たに雇用し、公共土木事業に随所で活躍させるのも、悪くはないな!」


「カイルズ卿、まんずよかでやすか?」


「あぁ、貴殿の手腕に期待しよう!」


「まっこと、ありがてぇ、ありがてぇ。恩に着るでやす」


 そう言って、女盗賊は深々と首を垂れた。


 それからしばらくすると、さっそく結果となって現れることとなる。

 女盗賊の正当な運営はとても評判が良く、周辺地域から多くの獣人達がセイントーク領に流入することになったのだ。


「いっか、オメェら、カイルズ卿に感謝ばすっとでやすよ。決して、顔に泥を塗るような真似ばすったら、そっ首刎ねてごじゃるでやすよ!!」


 女盗賊の号令に、獣人達は素直に従った。虐げられた者達とはいえ、中には無法者も荒い輩もゴマンといた。


 だが、彼女の睨みに逆らえる者などいるワケもなく、セイントーク領の治安が乱れることは、ほとんど無かった。


 一方で女盗賊は、カイルズの要請の下、部下数名をロスシルド領と隣国コリンド国境の森に潜伏させていた。

 ファイルド国とコリンド国の、両国を行き交う人々の動きを継続的に監視しているのだ。


「よしっ、まんずよかでやすな。引き続き、監視ば続けるでやすよ!」


「へいっ」


 女盗賊は報告にきた部下に銀貨を渡して労うと、彼らは音もなく消えてゆく。

 その潜伏費用も、カイルズから資金提供されており、作業は以前よりも格段にし易くなった。


「アタイばっか、こんなよか目見てあんべぇ。まんず、カイルズ卿にまっこと感謝でやんす」


 そう言って、鼻腔から深く長い息を吐いた。

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