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ハルコンは、ここぞのタイミングで、ドワーフの親方の頭の中に「天啓」を放り込む。
「他にもまだアイデアがたくさんあるので、これからもセイントーク領で製品化をお願いしてぇ。できれば、旦那に資金援助をして欲しいのでさぁ!」
親方は、ハルコンの齎した「天啓」を、一字一句異なることなく話したのだが。
「資金援助、……ですかな?」
カイルズが、ここで訝しげな表情を浮かべた。
あれっ!? 何かやらかしたかな?
ハルコンは、何かミスでもしたのかと、一瞬ドキリとする。
「この世界では、ドワーフなる人種は、あまり金のことを言わないというのが通り相場だ。だが、親方は資金援助という言葉を口にされた。私は、そのことにとても驚いているのですがね?」
笑顔のカイルズ。親方の心臓が、どこどこと早鐘を打つため、思念を同調しているハルコンの心も、とてもざわついていた。
「お察しのとおりで。旦那、……わしの頭の中に、最近、お天道様からたびたび声が聞こえてくるんでさ」
親方は、潔くあっさりと白状した。
すると、カイルズも小さくため息を吐く。
「そういうことでしたか。ならば、いくらでも望む額の援助をいたしましょう。できれば貴殿に、このセイントーク領に前向きに移住を検討して頂けると、こちらとしても大変ありがたいのですが」
「えぇ、もちろんでさ! 旦那っ!」
カイルズと親方は、笑顔で握手をした。
これでセイントーク領は、一人の有能な技術者を迎え入れることに成功したことになる。
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その後しばらくして、カイルズは親方と共同でスクリュープレス製品化の計画を進め始めた。
これに成功すれば、大変高価で少量しか採取できない食用油の大量生産が可能となる。
更に、スクリュープレスの派生技術も含めると、国を挙げての産業にまで発展させることが可能だ。
カイルズは何ら躊躇することなく、セイントーク領にいる手の空いた人員を総動員して職人の確保を行い、近隣商人への働きかけもして、販路の拡大に努めた。
国内各地の工房と接点のある親方も、さっそく手配して職人を次々とセイントーク領に送り込んで貰うよう働きかけている。
カイルズは、領都の中心部に設けられた親方の工房の近くに、新たに工場を設立する。
その工場は国内屈指、最先端の施設と言えた。造作も含めて親方のアイデアを随所に活かし、心地よく制作に励むことのできる環境となっている。
工場はセイントーク領の資金で運営され、重要な事業のひとつとなってゆく。