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「親方、……大変お待たせして申しワケない」
カイルズが応接室に入っていくと、先程より中で待っていたドワーフの親方は、立ち上がってお辞儀をする。
カイルズもニコリと微笑むと、慣れた調子で「お掛け下さい」と言って、親方に席に着くよう促した。
「王都より、この田舎領までようこそ遠路はるばるお出でなさった。心よりお礼を申し上げますぞ!」
「こちらこそ、大事なお時間を頂き、誠に申しワケねぇ」
「さて、……親方、貴重な手土産があると伺っているのだが?」
「えぇ、ごぜぇますよ、旦那! 今日はざっくばらんに、こちらの品を受け取って頂きてぇ。先ずは、ご覧になっておくんなせぇ!」
「えぇ。拝見させて頂きますぞ!」
ハルコンは、先程より親方の思念に同調しており、親方の緊張した気持ちがじわじわと伝わってくる。
これから、全く新しい概念である製品をプレゼンするのだから、それは当然のこと。
だが、この面談次第で、セイントーク領の財政が大いに上向くはず。
だから、絶対成功させるよ!
ハルコンは、面談が上手くいくよう、とても張り切っていた。
2人は挨拶も程々に、親方が真剣な面持ちで道具を床に設置すると、カイルズはそれに目をやった。
「木製の道具、……ですかな? 書面では、油豆を圧搾できるとあったが、一体どういう仕組みですかね?」
「えぇ。先ずは、簡単な説明からさせて貰いやしょう!」
カイルズは、面談前の書面での申し出で、その品が大変画期的な、とても貴重な道具であることを知らされている。
「さて、……これは全く以て異な形状ですな!」
上部に取っ手の付いた、らせん状の切込みの彫られたこん棒が垂直に立ち、下部は石臼の形状に類した造作。
カイルズは、しばしの間思案した表情で、じっと見つめている。
「旦那、……これはスクリュープレスと呼ぶ道具でさ。上のネジ棒を絞っていくと、受け手の台と台座の間がじわじわと閉まっていく仕組みでさね。例えば、油豆を圧搾すると、簡単に油を取り出せる代物でさ!」
親方はそう言いながら、カイルズの目の前で、さっそく用意した油豆の圧搾を始めた。
すると、その道具の台座から、ちょろちょろと油が搾り出されてきた。
「ふむ、……これは凄いな!」
「仰るとおりで」
髭面のドワーフの顔で、思わずニンマリと笑う。
その先進性に、目を見張るカイルズ。