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今回、セイントーク邸に訪れている、一級鍛冶士のドワーフの親方。実は、彼もまたハルコンの関わるNPCのウチの一人だ。
はぁ~っ。このセイントーク領に、やっときてくれたよ。
ハルコンは、親方を口説き落とすのに結構苦心したことを、今更ながらに思い出す。
この親方は、王都でも引く手数多の人気の鍛冶士だ。鉄製の鎧や刀剣といった武具だけでなく、フライパンや包丁、鍋薬缶、カトラリーグッズまで、調理道具もお手の物。
一方で、グラスやコップといったガラス加工から、彫金、木工大工まで何でもこなす。
要は、手を使って作る製品は、何でもできるオールラウンダーだということ。
ハルコンは、一日数時間は親方の思念に同調して作業を見学していたため、大体の能力を把握していた。
親方は、朝から晩まで仕事の依頼が途切れることがなく、ずっと働き詰め。ドワーフ故に気力体力十分で、粘り強く作業に従事しているのだ。
元々モノ作りとか手作業に興味のあるハルコンは、一日中その作業を眺めていても、全く飽きることがない。
前世の晴子も、ユーチューブで職人の作業を映すプログラムを好んで見ていたし、ましてや、一級のドワーフの手作業など興味の湧かないワケがない。
その作業に惚れ込み、出来上がった製品に感服し、ぜひともセイントーク領に招き入れたい。そうハルコンは熱望していた。
だから、再三に渡って、親方の頭の中に「天啓」を放り込んだのだが。
でも、……相手はなかなかうんともすんとも言わない。全く以て頑固なオヤジだった。
さて、……どうしようかな? 思い悩むハルコン。
中年の一級剣士と女盗賊の方は、順調に進んでいる。2人ともセイントーク領に惚れ込んでくれて、当分の間は、このまま領に定着して仕事をしてくれそうだ。
でもなぁ、……。そもそも、私もいろいろ口説かれる側だったし、口説く方法なんて、今更ワカらないよ。とほほほ、……。
ハルコンは、親方に今にも根負けしそうになっていたが、ここで秘密兵器を用意した。
「秘密兵器だぁ~っ!?」
『はい』
「神の御使いだか何だか知れねぇが、ワシを納得させるもんじゃねぇと、この王都を離れるワケにはいかねぇぞ! それに、まだ依頼を受けた仕事が山ほどあるんじゃからなっ!!」
『では、触りだけでも見せましょうか? 技術者のあなたなら、きっと興味が湧くと思いますよ!』
「あぁっ!? 能書きはいいからっ! 早く見せなっ!!」
どうやら、親方の好奇心が勝ったようで。
ハルコンは、渾身のイメージ映像を、親方の頭の中に送信した。
すると、親方は頭の中に放り込まれてきたイメージ動画を見て、……次の瞬間、
「うおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーっっっ!?」
思わず絶叫した。
「何じゃっ、これはっ!? こんなもの、これまで思い付きもせなんだっ!!」
『へへへっ、凄いでしょぉーっ!』
「こうしちゃいられねぇ。さっそく拵えてやるっ!!」
そう言って、親方は他の作業を残したまま、直ぐにその道具を作り始めていた。