2月初頭に催されたハルコンのお披露目パーティー。その日を境に、セイントーク領は段々と春の兆しを見せていく。
人や物流の往来も再び活発になり、王都からも多くの人々が訪れるようになっていた。
ハルコンは、順調に成長していた。生後3カ月経ち、身長も体重も平均値をキープしている。
陽光の差す室内。部屋の暖房も少しずつ減らされて、窓を開けて空気を入れ替えることが多くなってきた。
ハルコンはベッドに横になったまま、外気の混ざった空気を鼻腔からスゥ―ッと深く吸い込み、ゆっくりと息を吐く。
もう、春なんだな。
生まれ変わってから初めての春。随分遠くまできてしまったような気がした。
* *
3月に入って数日。もう雪の残っていないカイルズの屋敷に、とある人物が訪れていた。
「さて、これから私はとても珍しい人物の訪問を受けるのだが」
その訪問客は、応接室でたった一人、当主のカイルズに面会すべく待機しているとのこと。
「珍しい、……人物ですか?」
「あぁ、……。彼は、実は異種族だ!」
ハルコンのいる室内で、カイルズとソフィアのやり取り。ハルコンの目から見て、カイルズに少しばかり緊張の様子が窺える。
「その者は、何とっ、一級鍛冶士と名高いドワーフの親方なのだっ!」
「まぁっ!?」
ハルコンが話をベッドから聞いていると、どうやらカイルズは、これまで一級剣士と女盗賊を受け容れた時と同じ経緯を感じたのか、とりあえず面談をすることにしたようだ。
「これまで王都を拠点に活動しており、それだけで腕も技術も十分に保証できるのだが、……彼は先の戦争でも、たくさんの武器を急ピッチで拵えた伝説の男だ。私としても、会えるのなら一度会ってみたい人物だな」
「ドワーフの親方。私も異種族には興味がありますが、……怖い人物ではないのですか?」
「どうだろう? 書面で正式な面会の形式を取ってきたし、おそらく問題ないだろう」
「そうでしたか」
2人の会話を、ハルコンはベッドで寝たふりをしながら、ばっちり聞いていた。
「異種族の親方にどう接すべきか迷うところだが、どうやら貴重な手土産を持参している様子。それは、とても気になるところだ!」
「貴重な手土産? それは私も気になりますわね?」
「ふむ」
さて、カイルズとドワーフの一級鍛冶士の親方の面談。上手く話が進むといいんだけど。
技術者の彼には、ぜひとも私の研究道具を作製して、大いに役立って貰いたいからね。
ハルコンは期待を込めて、思わずにっこりと微笑んだ。