* *
セイントーク領とロスシルド領との間に挟まれて存在するのが、シルウィット領だ。
その当主のローレルは先の戦争で功績を上げ、最近子爵になったばかり。
元々祖父の代までは平民だったため、貴族としては新参者であると言っていい。
カイルズがまだ若く経験の浅いローレルを何かと気にかけて面倒を見るため、セイントーク領とシルウィット領の関係は極めて良好だ。
一級剣士と女盗賊は、再びハルコンの「天啓」を聞き、カイルズに紹介の労を求めている。
カイルズとしても、シルウィット家には特別に目をかけているので、大変ありがたいと言って、嬉しそうに応じている。
「ローレル殿、これからお二方を貴殿に紹介したいのだが」
「はい、カイルズ卿。こちらの方々は、私も存じ上げております。一級剣士殿と女盗賊殿であらせられるな?」
その溌溂とした受け答えに、剣士と女盗賊は、思わず相好を崩している。
まだ青年の気の抜けない子爵も、2人の紹介を嬉しそうに受けている。
ローレルと一級剣士と女盗賊の3人は、いくつかの話題で盛り上がると、お互いに好印象を持った様子で笑顔が絶えない。
一級剣士とローレルは、同じ戦場で戦ったワケではなかったものの、相手の武勲を噂では知っていたのだという。
お互いに讃え合う2人を、微笑しながら見つめている女盗賊。
ハルコンの目から見ても、ローレルは相当な美男子だ。その誠実そうな物腰が、まさに好青年そのもののように思われた。
女盗賊は、心なし頬を赤らめて、ローレルのことをじぃっと見つめている。思念を同調させているハルコンにまで、その気持ちがトクントクンと伝わってくる。
「ところでカイルズ殿。近々我が家でも子供が生まれますので、これまで以上に仲良くして頂きたいものですな」
「えぇ、それはとても楽しみですな」
ローレルとカイルズのやり取りを聞くや、女盗賊はとても残念そうな表情を浮かべていた。
ローレルの妻セリカは、出産が近いため本日はパーティーを欠席していた。
彼女はシルウィット領内の平民の出であるため、他の貴族達からは少し煙たがられているのだが。でも、ローレルはそんな雑音など全く気にしていない様子。
「カイルズ殿は、領地経営のノウハウや、貴族的振る舞いの不得手な私が頼っても、軽んじないお方だ。分け隔てなく陽気な方で、カイルズ殿が実の兄であったら良かったのにと思う次第ですな」
そう言って、ローレルは青年らしく朗らかに笑った。
「ならばこそ、ローレル殿にはこちらのお二方を紹介させて頂いた。貴殿の領の経営にも、大いに役に立つことになると思いますぞ!」
「大変ありがたい。中々願っても得られない、特別な機会を与えて頂き、誠に感謝いたします!」
ローレルはそう言って、曇りなく笑った。
なるべくなら、カイルズだけでなくローレルのことも助けたいとハルコンは思った。
一級剣士と女盗賊の表情を見て、さっそく思考を巡らせる。
どうやら「天啓」を与えずとも、NPC達はローレルのことを大層気に入ったようだ。
おそらく、これからローレルに、いろいろと力を貸すことになるんだろうなぁと。