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06 ハルコンの生誕パーティー_03

   *          *


 先程まで、女盗賊はたくさんの男達に囲まれていたが、今はハルコンからの「天啓」を授かったことで、完全にお仕事モードになっていた。


 女盗賊は、先日のカイルズとのブリーフィングで、東方3領の事情を概ね把握済みだ。


 ここで本日のパーティー会場で目指すべきターゲットは、自ずと2名に絞られた。

 一人はジョルナム・ロスシルド伯爵。もう一人はローレル・シルウィット子爵だ。


 この2人にカイルズのセイントーク領を加えると、ファイルド国東方3領となる。


 中年のジョルナムは、性格が悪い上に金に汚く、約束も守らない男。

 まだ青年のローレルは、新興貴族故に平民の気が抜け切らない甘い男。だが見込みがある、将来有望な人物だとカイルズは伝えている。


 女盗賊は、酒に酔ったふりをしつつ、頭は極めてクリアなまま、ロスシルド伯の許に近づいていった。


「これも、……全てハルコン殿のためでやす」


 女盗賊は、自分自身を卑下している。これまで多くの殺しに加担してきたため、もう自分は地獄ゆきとばかりに、半ば自暴自棄にすらなっていた。


 それが、ある時のことだ。

 神の御使いと思しき存在から、頭の中に直接お声がかかったのだ。


 女盗賊からしてみると、矮小でグロテスクな存在である自分に、急に神の側から「オマエは何も間違っていないよ!」とお墨付きを与えてくれたような心地がして、とても幸福で満ち足りた気分になった。


 あぁ、アタイは、ハルコン殿から頼まれたら、……もう何も断れねぇ。

 ハルコン殿がお望みとあらば、どんな汚ねぇことでも、みっともねえことでも、……厭わずにやるでやす。


 それだけ女盗賊にとって、ハルコンという存在は絶対的だった。


「ハルコン殿、……見てておくれでやす!」


 笑顔だが、その心は眦を決していた。


 ハルコンは、そんな女盗賊に思念を同調するたびに、彼女のハルコンへの思いの深さを知るにつれ、少なからず罪悪感を覚えている。


 何だか、……まるで女盗賊さんの気持ちを利用しているみたい。

 こんなのって、本意じゃないんだけどなぁ、……。


 ハルコンは前世が女性だったこともあり、女盗賊に対して少なからずのシンパシーがあった。

 さて、どうしようか? 頼りたいのも山々なんだけどね。


 だから、ハルコンは女盗賊に「天啓」を放り込む際に、細心の注意を払ってこう付け加えている。

 女盗賊さん、……くれぐれも、ほどほどにね、と。

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