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06 ハルコンの生誕パーティー_02

   *          *


 そう言えば、向こうの様子はどうなっているんだろう?


 ハルコンは、大ホールの方が気になり、さっそく一級剣士の思念に同調を始めてみた。

 もう、この数カ月の間に何千回と繰り返してきた作業なので、お手の物だ。


 ハルコンは造作もなく、思念の周波数の目盛りを瞬時に調整していくと、ホールにいる剣士の視覚、聴覚、嗅覚、……様々な感覚が脳に入ってくる。


 会場は、相変わらず大いに盛り上がっているなぁと思った。

 弦楽器の生演奏に、踊り出す若者達の一群もいる。あちこちで歓談がなされ、食事や酒を楽しむ人達も多い。


 なるほどなぁ。こうやって、半ば公式のお祭りの場を提供することで、カイルズは地元の信頼を集めているのかなぁと、ハルコンは思った。


 今回、中年の一級剣士、若き女盗賊の両名は、東方の田舎領においては俄然注目の的。

 ハルコンは一級剣士の思念に同調していると、多くの視線を注がれるのがひしひしと感じられた。


 ふと見ると、女盗賊の人気も相当なものだ。

 そもそも、若い女が盗賊稼業などかなり珍しい。聞こえてくる話によると、彼女はいわゆる義賊だったらしい。


 重税を課す領主の蔵を襲って物資を民に配ったり、戦後の食糧難の時代に値を釣り上げた商人を襲って人々に配って回ったりとか、物騒な美談に溢れていた。


 超絶美麗な容姿の上に、カイルズに提供された薄桃色のドレスの美しさも相まって、周りにはより多くの男達が群がって大変賑わっている。


 ハルコンは、試しに女盗賊にも思念を同調してみた。

 多くの者に囲まれて褒め称えられて、……さぞや満足なのではと思ったのだが。


 でも、実際の女盗賊の心情は、戸惑いと諦めの気持ちがかなり強いようだ。


「アタイは、皆様に褒められるような女ではねぇでやす。こそばゆいでやす」


 絶世の美女にそんなことを言われてしまった男達は、ここでほっこり笑顔になるのだった。


 一方、子供達や若者達に囲まれているのが、一級剣士とその情婦達。彼らの馴れ初めを、興味津々に貴族の子女達が聞いて楽しんでいる様子。


 一級剣士が憧れの王都から訪れたこともあり、都会の話も聞けるとあって大変盛り上がっているようだ。


 一級剣士は、職業柄これまで多くの地を渡り歩いてきた男だ。そのためか、営業のスキルも相当に高い。


 若い純朴だけど流行にも敏感な子達に囲まれたら、彼ら彼女らが真っ先に喜びそうな話題を次々と話してゆくのだ。


 時には、自分がピンチだった時、如何にその場を乗り切ったのかを面白おかしく話すのだが、その話題は、特に男子達の参考になったようだ。


 女子達は、むしろ自由な恋愛を楽しんでいる剣士の、男女の機微に触れるようなピンチ話を楽しんで聞いているようだ。


 ハルコンは、2人のNPCの頭の中に「天啓」を放り込む。

 会場に招かれた様々な客人達の様子を、ちょっと探って欲しいなぁと。


 一級剣士と女盗賊の2人は、軽く頷いた後、直ぐに会場内を散策し始めた。

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