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「……、それでアタイ達、たまにコリンドの帝都にも顔を出すことがあるんでやす」
晩餐の席に招かれた女盗賊。服装が皮鎧姿でフォーマルではなかったため、急遽屋敷にあった服に着替えさせられて、参加していた。
着慣れない服に戸惑った様子の彼女だが、女中によって軽い化粧を施されたこともあり、とても美しい容貌となっている。
ハルコンの兄達はうっとりとした表情で彼女を見つめ、サリナも笑顔だ。
晩餐の席に着いた者は、女盗賊から隣国の現地の様子を詳細に聞くことができた。
何でも、現地は戦後復興策があまり機能していない様子で、どうやら民は貧しい生活を余儀なくされているとのこと。
「どうだろう、女盗賊殿。今後も現地の情報を伝えて貰えるだろうか?」
「えぇ。先立つものを頂けると、大変ありがてぇのですが、……」
「よかろう。詳細は後の面談で決めることになるが、それで構わないか?」
「えぇ。もちろんでさっ!」
カイルズは、彼女の齎した情報に価値があると判断したのだろう。
これまで見下していた態度を即座に改めると、彼女に依頼し、調査のための活動資金を望むだけ渡すと約束した。
ハルコンは、父カイルズの手腕に、なかなかやるなぁと、思わず頷いてしまった。
今宵の晩餐の席で、まさに国内屈指の歓談が続いている。
「ところで、ひとつだけお訊ねしたいのだが、……よろしいか?」
カイルズが、笑顔で一級剣士と女盗賊に対して話を切り出すと、2人も笑顔で首肯する。
「貴殿らには『縁』があるそうだが、……その中心には、誰がいるというのだろうか?」
「ハルコン殿であるな!」
一級剣士が即答すると、女盗賊も嬉しそうに頷いた。
「これは、謀っておられるのか? いや、ハルコンと言うが、まだ生まれたばかりの赤子だぞ!?」
「カイルズ卿は、……女神様のお告げを見なかったのでやすか?」
女盗賊が、不思議そうに笑顔を浮かべて訊ねる。
「まさかっ!? ハルコンが神の御使いであるというのか!?」
思わず声を上げてしまうカイルズだが、剣士と女盗賊は力強く頷いた。
「それが、……我らの『縁』ゆえ」
剣士の言葉に、カイルズはしばらく複雑な表情を浮かべていたのだが、
「よいでしょう。これは全て神の思し召しと思って、今後嘘偽りなく、お互い正直に接することにしましょう!」
そう言って、一級剣士と女盗賊を正式にセイントーク伯爵領に迎え入れた。
ファイルド国東方、セイントーク伯爵領。
広大な農地と森林を有し、海洋にも面した豊かな領だ。その西隣に同規模のロスシルド伯領。中間に弱小の新興子爵シルウィット領がある。
ファイルド国東方3領は、現在微妙なバランスの上に成り立っている。そのことを客人達に正直に伝え、率直な意見を求めると、各々忌憚のない意見を述べてきた。
そして、晩餐の席の最後に、カイルズはハルコンが神の御使いだと認め、これまで以上に信仰心を篤くすると客人達に誓った。
「カイルズ卿、アタイ、これからハルコン殿にお会いできねぇでやすか?」
「おおっ、女盗賊殿の言うとおりだ! 我もぜひ会いたいところだが!」
しばらくして、ハルコンは母ソフィアに抱きかかえられて、一級剣士と女盗賊に会った。
ハルコンはたった今、目を覚ました素振りをすると、きゃっきゃとあどけなく笑ってみせた。その様子を、2人のNPC達やハルコンの兄姉達が、嬉しそうに囲んで見つめている。
ハルコンの兄姉達は、客人達に興味津々。兄達は一級剣士を憧れの眼差しで見つめ、姉のサリナは女盗賊と一緒になって、ハルコンがかわいいと大騒ぎ。
「来月初頭、ハルコンの生誕パーティーを開くのだが。ぜひ貴殿らにも参加して欲しい!」
カイルズの求めに対し、一級剣士と女盗賊は快く応じるのだった。