* *
一級剣士を迎え入れたその日の夕暮れ時、晩餐の席が急遽設けられた。
セイントーク家は、ハルコンとソフィアが産後間もないため、その場を欠席している。
ハルコンの兄姉達は、フォーマルな貴族服を身に付けて、その席に揃って着いていた。
ハルコンは、一級剣士の目を通して晩餐の席の様子を眺めていた。
兄や姉達は、地方とはいえ、上品な育ちの貴族の子供達だ。来客への応対も、テーブルマナーもきちんと教育されており、子供ながら堂々とした様子が窺えた。
しかしながら、今回、剣士の情婦達とも、こういう形で同席することになり、真冬なのに胸元の大きく開いた服装を見て、皆顔を真っ赤にさせている。
本来なら、こんなアダルティな人種を、温室育ちの子供達の目に触れさせるべきではないのに、とハルコンは思う。
でも、おそらく、……カイルズは一級剣士と家族ぐるみの友好的な付き合いを演出したいのかなぁと。
「カイルズ様、……」
家令が近づいてきて、耳を貸すカイルズ。
すると、その表情が見る見る間に曇ってゆく。
30人程の軽武装の集団が、屋敷の門の前に突如現れたのだという。
あいにく、セイントーク領では領軍を設けてはいない。騎士爵を数名抱えているのみだ。
和やかな晩餐の席に、不穏な空気が立ち込め始めた。
「カイルズ殿、我が見てこようか?」
一級剣士が、青い顔をするカイルズに、頼もしい調子で訊ねてきた。
「まさか客人の剣士殿に、野盗の相手などさせられませんな。難儀ではあるが、こちらにも騎士爵が数名控えています。彼らに、先ず応対させてみましょう!」
「いや、……そうではなくてな。おそらく若い女盗賊殿だろう。カイルズ殿、試しに招いてみては如何か?」
「何故それを?」
カイルズは、驚いたように訊ね返す。しかし、剣士はニコリと微笑んでいる。
「まぁそれは、……我らの間には、大いなる『縁』のあるが故」
「なるほど、『縁』……か」
カイルズはそう呟くと、直ぐに家令に命じた。
門の外で待つ軽武装の集団に、とりあえず要件を訊いてこいと。
もちろん、初老の家令一人ではない。騎士数名と共に向かわせているのだが。
それからしばらくの間待っていると、家令がひどく慌てた様子で戻ってきた。
「盗賊の首領は若い女でした。この者は、カイルズ様にお目通り願いたいと申しております」
「私……だと?」
カイルズは思わず唸った。