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05 面談するカイルズ_03

   *          *


 カイルズの帰領から数日経った頃、屋敷にメッセンジャーボーイが手紙を持って現れた。

 その文面によると、中年の一級剣士が王都より訪れ、カイルズとの面談を希望しているとのこと。


 カイルズは著名な剣士と会えるとあって、とても喜んている様子。

 面談の日付は、既に家令が相手方に伝えているというのだが。


「さて、……剣士殿は、一体どんな人物なのだろうか? 会うのが楽しみだ!」


 ふふふ、お父様。彼は相当モテモテの、……情婦のいっぱいいる、ちょいヤバのイケオジですよ!

 憧れの表情を浮かべるカイルズを、ハルコンはベッドから笑顔で見つめていた。


 数日後。一級剣士が面談に訪れた。


「カイルズ様、一級剣士殿がお越しです。客間にてお待ちになられております」


「おぉ、そうだったな」


 家令の言葉に、嬉しそうに応じて立ち上がるカイルズ。

 ハルコンはベッドからそんな父を見上げながら、面談で何かプラスに働くといいなぁと思った。


 カイルズが席を立つと、室内はまたいつもの静けさを取り戻す。

 ソフィアとサリナは編み物に没頭し、ハルコンは赤ん坊なので特にすることもない。


 さて、……どうしようかな?

 一級剣士の思念に同調して、父との面談で何が話されるのかを見ることにした。


 おやっ!? まぁ、……何て言うか。ハルコンの目から見ても、面談の席はいささか奇妙な具合になっていた。


 父カイルズの傍には、普段セイントーク領の警護を担当する騎士爵が並び、背後には家令が控えている。

 一方、対座する一級剣士の傍らには、道中で仲良くなった情婦達が、シナを作って微笑んで座っているのだ。


 本来、その剣士はまさに剣豪と呼ぶべき、国を代表する程の人物だ。

 王都ではちょっとした有名人であり、そんな人が雪の残る田舎領までわざわざ訪れてくれたことに、カイルズは率直に礼を述べている。


「カイルズ殿、お心遣い、誠に痛み入る次第。我は王都での生活に、もう飽きている。ここしばらくの間、我を召し抱えてくれる地方の貴族を探しているのだが、……貴殿に我を雇う気はあらぬか?」


 剣士は、率直に自分の希望を伝えてきた。


「なるほど、……それは私にとっても渡りに船ですな。よろしい。貴殿がお好きなだけ、ここにおられるがよかろう!」


「かたじけない」


 そう言って頭を下げる一級剣士。カイルズは小さくほくそ笑む。


「では、剣士殿にたっての願いなのだが、……現在、ファイルド国東方3領、セイントーク伯爵領、ロスシルド伯爵領、シルウィット子爵領の力関係が極めて微妙でしてな。名のある剣士殿には、警備と雑務を主にお願いしたいと思っております」


「それは、我の得意分野であるな!」


「そう仰られると、こちらとしても大変ありがたい。剣士殿、我が領に歓迎いたしますぞ!」


 そう言って、お互いに力強く握手するので、ハルコンは、ホッとため息を吐いた。


「つきましては、カイルズ殿、貴殿にお願いがあるのだが、……」


 すると、剣士が思わせぶりに目配せする。カイルズはちらりと情婦達を見てから、


「なるほど。いいでしょう、剣士殿にも休暇が必要ですからな!」


「そう言って頂けると、大変ありがたい。春先まで、我はしばらく逗留できるところを探しておったのだ!」


「なら、いい場所がありますぞ。我が領内にはいくつも温泉施設がありましてな。さっそく案内するよう手配しましょう!」


「誠にかたじけない。カイルズ殿のお心遣い、大変感謝する!」


「いやいや」


 おそらく、経費は全額セイントーク領で負担するのだろう。高名な剣士を囲い込むことができて、父は相当喜んでいるに違いない。

 中々のやり手だなぁと、ハルコンは素直に感心した。

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