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05 面談するカイルズ_02

   *          *


 カイルズ一行の帰領による、昼間の慌ただしさも終わり、夕食の後、屋敷の者は皆落ち着いた時を過ごしていた。


 ハルコンとソフィアの過ごす部屋は、要所に設えられた蝋燭の灯りと暖炉の揺らめく炎が、部屋を穏やかに照らしている。


 ハルコンはうす明るい部屋でウトウトしていると、ソフィアが優しそうに前髪を撫でてくれる。


「とてもかわいい、……私のいとし子、ハルコン」


 母の手の温もりが、どこか懐かしくて、くすぐったく感じられた。

 すると、ドアをノックする音がする。


「私だ。ソフィア、少しだが話したりできるか?」


 カイルズの声だ。どこか少しだけ躊躇った様子も窺える。


「えぇ、入ってらして。こんな時間に何かしら?」


「すまない。実はな、……オマエに今後の件で、いろいろ話しておきたいことがあるんだ」


「えぇ。お話になって、カイルズ!」


 ハルコンは、両親の話をベッドから全て聞いていた。

 最初のウチは、セイントーク領の徴税に関する話とか、カイルズが王都で聞いた新規事業の話などを、ソフィアにかいつまんで話していた。


「その上で、……これから話すことが、とりわけ重要なのだが、ぜひ聞いて欲しいんだ」


「えぇ、カイルズ。どんなことかしら?」


 何でも、王都からセイントーク領までの道中、カイルズには、ひとつだけとても気がかりなことがあったらしい。

 それは、しばらく続いた吹雪が止み、夜中にも拘わらず天上星が真昼のように輝き出した、あの夢のお告げに関してのことだ。


「天上星、……ですか?」


「あぁ。世の中に新たな動きがある時に煌々と輝くと言われ、大いなる変化を象徴する星とされている」


「それは知っています。ですが、それと私達と、一体どういう関係があるのかしら?」


「我々はな、……おそらくファイルド国周辺一帯の人々は、皆、同じ夢を見ていたんだ。女神様が数十年ぶりに夢に現れて、こう仰られたのだ!」


『本日、我が御使いを地上に遣わしました』

『その者の齎す光は、夜の闇すら昼間のように明るく照らし出してご覧に入れますよ』

『さぁ皆さん、その少年と共に、世界を大いに盛り上げて参りましょう!』


「カイルズ、……私は、あいにく見ておりませんよ」


「どうしてだ? 王族の間ですら話題に上がっていたのだぞ!?」


「だって、……、あの時、私はハルコンのお産でしたから」


「なるほど、そうだったな。領地からの報告によると、ハルコンの生まれたのはあの日の晩ということであったな」


「あなたは、もしかしてハルコンが、その御使い様とお考えなのですか?」


「ふむ、……私にも、皆目ワカらないのだ」


 両親の話をベッドから聞きながら、ハルコンは思わず顔を顰めた。

 もしかすると、私は今回もまた、悩み多き人生を歩む運命にあるということなのか?


 そんなことを思っていると、両親がこちらに近づいてきた。


「見た目には、普通の赤子と変わりませんよ?」


「ふむ、……確かに」


 ハルコンの顔を見ると、2人は心配事が雲散霧消したように、ホッとため息を吐く。


「オマエによく似て愛らしく、穏やかそうで、精緻な顔つき。カールしたプラチナブロンドの髪も美しいし、見た目も健康そのもの。言うことなしか」


 カイルズは、改めて沸々と愛情が込み上げてきている様子。


「望むべくして生まれた、大事な我が子ですよ。とにかく健康に、安らかに育って欲しいものです」


「そうだな」


 そう言って、両親はハルコンの髪を優しく撫でた。

 ハルコンは思った。とりあえず子供でいる間だけでも、目立つ行動を自重すべきなのかなぁと。

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