ハルコンは、暖房のゆき届いた部屋のベッドで、ゆったりとした気持ちで過ごしていた。
清潔なシーツや毛布からは、冬にも拘らず日なたの匂いがし、自然と身も心も軽くなる。
暖炉の傍には、姉サリナと母ソフィアが、何か一生懸命編み物を続けている。
その様子を、ハルコンは何とはなしに見ていると、サリナとふと目が合った。
彼女は思いついたようにニマァと笑うと、ベッドの傍にやってきた。
「フフフッ、ハルコンくぅ~ん、お姉ちゃん、キミのために帽子を編んでいるんだぞぉ。楽しみにしててねっ!」
そう言って、白い歯を見せて笑いながら、編みかけのものを見せてくれる。
ふぅ~ん。結構上手だな。サリナ姉さんは、思ったよりも手先が器用なのかも。
「キャッ、……キャキャッ」
「まぁ~っ、喜んでる、喜んでる。私、嬉しいわっ!」
そう言うと、サリナは再びソフィアの許にいって右腕に抱き付くと、ニコリと笑った。
「ほらほらサリナ、目を突くから危ないわ! 私のも、カイルズが戻る前に、何とか仕上がるかしらね?」
母はそう言って、せがむサリナに、仕上がり前のチョッキを見せて上げた。
「お母様っ、……上手です!」
「あら、そう? サリナのも上手!」
ここで、お互いニッコリと笑い合う。
ハルコンは、今日もセイントーク家は一日平和だなぁと思った。
すると、大玄関の広間の方から、大扉の開閉する音が、こちらまで鳴り響く。
何事だろうと思っていると、ノックの後に家令が入ってきて、ソフィアに父カイルズの一行が領内に戻ってきたことを伝えている。
その報告を、嬉しそうに頷きながら聞いているソフィアとサリナ。
それから半刻程経った頃、大扉が開閉し、ガヤガヤと、複数の人の気配がこちらの部屋にまで届いてきた。
「私、見てくるっ!」
サリナが立ち上がった。
「廊下を駆けてはダメですよっ!」
「はいっ、お母様」
そう言って、部屋を飛び出してゆく。ソフィアは、産後まだそんなに日が経っていないため、養生して椅子に腰かけたままだ。
すると、しばらくして廊下を勢いよく歩く音が近づいてくる。
「おぉ~っ、戻ったぞソフィア! 息災にしてたかっ!?」
「カイルズ、……お帰りなさい。あらっ、まぁっ苦しいっ、苦しいったら!」
「ハハハッ、良かった! 無事健康そうで何よりだっ!」
カイルズは、そう言って椅子に座るソフィアを強く抱き締めている。
なるほど、……両親の夫婦仲は、かなり良さそうだな。そう思って見ていると。
「カイルズ、あの子がハルコン。とても元気よ!」
「おぉっ、ハルコン! 我が息子よっ!」
そう言って、カイルズは満面の笑顔で近づいてくる。
生後間もないハルコンは、カイルズに優しく抱きかかえられながら思った。
私は今度もまた、家族には恵まれているんだなぁと。
すると、とても優しい気持ちになり、自然と笑顔になった。
「おぉソフィアよ! ハルコンが笑っているぞ! オマエに似て精緻な顔立ち、とてもあどけなく、何とかわいらしいことか!」
「えぇ、カイルズ」
父は健康に産んでくれた母に感謝を伝え、しばらくの間は無理をしないようにと優しく気遣っている。
姉がもっとかまって貰いたそうにしていると、父は彼女に肩車をして喜ばせている。
ハルコンは、父カイルズがこれまでの想像どおり、相当目端の利く人物なのではないかと、改めて思った。