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03 神の御使い、ハルコン・セイントーク_04

   *          *


 ファイルド国東方、セイントーク伯爵領。広大な農地と森林を有し、海洋にも面した豊かな領だ。


 当主の名はカイルズ・セイントーク。温厚な紳士で年齢は30代半ば。中肉中背の平凡な風采をしていて、貴族服を身に纏っていなければ、大店の商人に見えなくもない。


 ただし、商売には並々ならぬ嗅覚があり、領内の発展を聞き付けた王ラスキンから国政の手助けを求められ、何度も応じている程の優秀な経済通でもある。


 最近の彼は王都に単身赴任中で、領の運営を家臣団に任せっきりの状態だ。

 そろそろ、新しく生を受けた3男ハルコンに会いたいと、カイルズは周囲に漏らしているのだが。


   *          *


 その頃、ハルコン・セイントークは、伯爵邸の温かい日差しの入る暖房のゆき届いた一室にいた。


 彼はまだ生後間もなくて、母ソフィアに優しく髪を撫でられながら、ベッドですやすやと静かに寝息を立てていた。


「とてもかわいい。私のいとし子、ハルコン。将来は、お父様のようにこの国のためにしっかりと尽くすのですよ」


 母親譲りの美しいプラチナブロンドの髪が、くるくるとカールしてとても愛らしい。

 姉のサリナも、傍で新しく生まれた弟を嬉しそうに見つめている。


 その赤子の目鼻立ちは、繊細にして緻密。並々ならぬ知性を秘めた、精緻な顔つき。


「とても頭の良さそうな顔。ハルコンが王都で役人になるのも、夢ではないわね」


 ウフフフと、思わず笑みを漏らすソフィアとサリナ。

 すると、その赤子は静かに目を覚まし、愛らしい手で姉の指をギュッと掴んだ。


「まぁっ、意外と強い力。もしかすると、将来名のある武人様になるのかもしれないわ」


 母親ソフィアも、我が子の行く末をあれこれと想像して、思わずニッコリ。

 生来貴族にしては珍しくのんびりとした性質のソフィアは、温厚で実直なカイルズと大変仲がいい。


 2人の間に子供は4人。長男マルコム、次男ケイザン、長女サリナ、そして3男ハルコン。

 皆健康で愛らしい子供達。ソフィアは、母親としての幸せを十分噛み締めている。


 このたび長男のマルコムが7歳となり、王都の王立学校に入学することが決まっている。

 ケイザンが来年、愛らしいサリナは後2年先かな。


 全てが順調で、とても安らぎに満ちた静謐な日々。

 ソフィアは幸せそうに微笑んだ。


 でも、……もうしばらくすると、セイントーク家の日常は風雲急な変化と大発展を遂げることになる。

 それも、ファイルド国全域を巻き込む程の。


 その起爆剤こそが、ソフィアとサリナの目の前でキャッキャッとあどけなく笑うハルコン。今はまだ嵐の前の静けさであった。

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