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当時のファイルド国は、戦後復興期にあった。
隣国コリンドとの長きに渡る戦争に終わりを告げ、これからは平和な世界を享受する。
人々はもう村や街を焼かなくてもいい。誰も殺さなくていい。
そんな素晴らしい世を温かく迎え入れ、希望を胸に人生を謳歌しようとしているのだ。
でも、如何せん物資が不足していた。戦時経済から全く性質の異なる復興経済にすんなりと移行できるワケもなく、……。
人々の介在する至る所に、様々な問題や軋轢、闘争があったことも否めない。
それでも、ファイルド国の人々は疲弊した国を盛り返そうと、皆汗を流していた。
王族も貴族も平民も。ヒト族もエルフ族もドワーフ族も、獣人や竜人も、各々が出来ることをひとつひとつこなしながら、毎日の糧を得ていたのだ。
王ラスキン直下で、治安の悪化対策や財産保護、また公共事業のための法整備が急ピッチで進められ、貧弱な社会インフラにも大々的にメスが入れられた。
そのためには莫大な資本と物資、取り分け技術革新が必要不可欠だ。
あいにく、今回の戦争は隣国と痛み分けに終わってしまった。その結果、全くと言っていい程賠償金は手に入らなかった。
だが、……仮に取れたとしても、隣国コリンドは貧しい武装国家だ。
そんな国相手に下手に賠償金を取ろうものなら、後々まで禍根を残すことになる。
それは次の戦争を誘発することにつながり、何としても避けたい。
よって、ファイルド国は自力救済に徹し、最終的には他国に不当な干渉を一切受けない、強国とならなければならない。
そのために、経済の復興。それこそが最重要の鍵と言えた。
そこで王ラスキンから白羽の矢が立ったのは、戦闘にはからっきしの穏健派中堅貴族、カイルズ・セイントーク伯爵。ハルコン・セイントークの父親だ。
カイルズは辺境領の中堅貴族だ。だが、これまでに領内改革、産業や商業圏の育成など、経済活動に極めて機敏でよい結果を多く残してきた。
それは、王ラスキンの耳にも直ぐに届き、国内の改革着手に徐々に参加させてゆく。
王の期待に応えたカイルズは、徐々に他領の貴族達の許にも利益を齎すような施策を提言したことで、多くの信頼を得るに至った。
王ラスキンも、カイルズに全幅の信頼を寄せ、彼を次第に重用するようになっていったのだ。