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03 神の御使い、ハルコン・セイントーク_02

   *          *


 最近のファイルド国周辺一帯は、吹雪が止めどなく降り続いていた。

 極地方の猛吹雪という程ではないが、積雪は1メートルを優に越え、昼間でも氷点下となっている。


 この地方の冬は、概ね11月に始まり、2月に終わりを迎える。

 人々はその4カ月間に備えて、多くの食料や薪といった燃料、様々なものを準備する。


 準備できなければ、冬を乗り越えられない。

 そして、人々は冬になると、石造りや木造の家に閉じこもっているばかりではない。

 籠を編んだり、草鞋を作ったりして過ごすので、それはそれで忙しい日々を送っている。


 人々は、今年も例年と同じく、もうしばらくの間は寒い日に悩まされると思っていた。

 それが、とある日の夜遅く、……みるみるウチに風が凪ぐと、雪も漸く収まった。


 濃い群青色の空には、隅々まで雲ひとつなく。

 満月が煌々と地表の雪々を照らし、辺りはシンと静まり返っていた。


 人々が待ちに待った、春の訪れを予感させるような静かな気配。


 天空の星々がさまざまに輝き、……すると、中にたったひとつだけ、ひと際強く光を発する星があった。


 それは、天上星。

 世の中に新たな動きがある時に煌々と輝くと言われ、大いなる変化を象徴する星とされている。


 すると、その星が次第に輝きを増してゆき、……いつしか太陽のように真っ白く明るくなる。

 地上は、まるで真昼のよう。


 その奇跡のような光景を、ほとんどの人々は眠りに就くことで見ることは叶わなかった。


 ファイルド国周辺一帯の人々は、同じ夢を見ていた。

 人々の崇拝する女神様。彼女が数十年ぶりに人々の夢に現れて、こう仰られたのだ。


『本日、我が御使いを地上に遣わしました』


『その者の齎す光は、夜の闇すら昼間のように明るく照らし出してご覧に入れますよ』


『さぁ皆さん、その少年と共に、世界を大いに盛り上げて参りましょう!』


 女神の御心が、全ての人々の心に波となって届いてゆく。

 それは、王であれ、皇帝であれ、貴族であれ、平民であれ、……。


 ヒューマンだけでなく、エルフにも、ドワーフにも、獣人にも、竜人にも。

 その全ての人々の心の中に、暖かで眩しい光と共に、沁み渡っていく。


 これは、ファイルド国とその周辺国全ての民に夢となって現れた、女神様からのお告げだ。


 そして、女神様の仰られたその御使いこそ、東方3領で新たに生を受けた、ハルコン・セイントーク、その人であった。

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