* *
「恐れ入りますが、話がいささか急過ぎますっ! 少しだけ考える時間を頂けませんか?」
「あらっ、晴子さん、あなたは並列思考の天才ではなかったのですか? 私とお話をしながら、別のことも考えたりしているはずですよね?」
晴子は思わずぎくりとするも、
「それでも、……少しだけ、時間を下さいっ!」
「まぁいいでしょう。時間だけは、たっぷりありますからね」
そう言って、ニコリと微笑む女神様。
晴子は、女神様から与えられた情報を、頭を最大限に働かせながら考え尽くした。
時折ちらりと女神様の様子を見ると、ニコリと微笑まれてしまう。
晴子は、女神様が随分自分のことを買われたものだと、恐れ多く感じた。
「女神様、お訊ねしてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ」
何でもウエルカムな表情で、質問を促す女神様。
「メイン人格がNPC人格にアクセスすると、その環境に相応しい思念をトレースして、的確な行動を起こすことが可能になるのでしたね?」
「あらっ、まだ晴子さんには、そこまではお伝えしてなかったのですが、……あなたの頭脳は、とっても面白いですね」
「恐れ入ります。そのアクセスのレベルで、フルダイブすれば人格の乗っ取り、ショートアクセスなら『天啓』をそのNPCに与える、そんな感じですか?」
「仰るとおりっ!! 晴子さん、あなたの飲み込みの早さには、感心しちゃうわっ!」
女神様は、感極まったように席を立たれるや、駆け寄って晴子の手をギュッと握った。
すると、晴子の全身に、稲妻のように多幸感がほとばしった。
「ちなみに、……次に晴子さんの生きる世界には、大規模な魔法は存在しません。大体中世ヨーロッパ以前の文明水準で、使える魔法はあくまで生活魔法程度。それもライターサイズの魔石を触媒にしないと利用できませんので、非常にショボいものと言っていいでしょう」
晴子は、女神様が自分に何を期待しているのか、心の中でシミュレーションする。
実際、自分は10人と同時に会話をすることができるし、並列作業はお手のものだ。
なら、……この話に乗るのもありか?
「晴子さんに、来世での役割は特に求めておりません。経済や人的流通を活性化させ、その世界の文明水準を高めるも良し。前世の地球で開発したアイウィルメクチン、すなわち仙薬エリクサーをこの世界に広めるも良し。伯爵の3男として、その生涯をのんびり暮らすも良し。要は、好きに何でもやって良いのですよ。だって、あなたの人生なのですから」
そう言って、女神様は嬉しそうに微笑んだ。