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さて、神様って一体どんな方なのだろう?
晴子は無宗教だけど、信仰心がある。
例えば、素材探しのフィールドワークで夜の森に一人でいる際、他に誰もいないのに、暗闇の奥底から何者かが自分を覗き見ているのではないかといった獏たる不安。
それは、……見えざる者が現実にいると錯覚しているだけかもしれないが、晴子は気配を察知することも、信仰のひとつと見做している。
まぁ、原初のアニミズムとか精霊信仰に近い感覚と言っていいだろう。
神様のお姿を想像していると、白を基調とした明るい広間に、その気配が感じられた。
広間の中程に少し高い段があり、そこにその方がいらっしゃって、こちらに手を振って下さっている。
人間の女性の姿をしており、妙齢で美しく温厚そうな眼をした御方だ。知性と母性を併せ持つ、……おそらく女神様なのかなぁと、晴子は思った。
「こちらにいらっしゃいな、聖徳晴子さん。あなたのことを大いに歓迎いたしますよ」
そう言って、女神様はニコリと微笑まれた。
その慈愛に満ちた目の覚めるようなスマイルに、晴子は思わず身震いする。
「失礼いたします」
晴子は緊張して一礼して女神様に近づくと、椅子を勧められる。
白いテーブルには、生前の晴子が好きだったヨックモックのチョコクッキーと白陶の茶器が並べられており、カップは白い湯気を立てている。
「さぁさ、冷めないウチに頂きましょう!」
「はい」
女神様に勧められて口にするも、緊張で味がよくワカらない。
「ねぇ晴子さん。最近ここにいらした人達は、不慮の事故で死なれた方、ブラック企業で働いて過労死された方、学校で壮絶なイジメに遭って精神を病んでお亡くなりになった方。皆さんとても不幸な生涯を終えた方でいらっしゃいましたわ」
「なるほど。今思えば、私も生前は碌に寝ずに研究生活を送り、人の10倍は働いていましたね」
「恋人はいらっしゃいましたか?」
「おりません。研究の方がずっと楽しかったので」
「なら、給料は多く頂きましたか?」
「どうでしょう? 生前は学校の仮眠室でずっと寝泊まりしていましたので。食事も学食で安く上がりましたから。今思うと結構な貯金をしていたと思います」
女神様はニコリと微笑むと、晴子の見たことのないデザインの端末機器を取り出し、画面を操作し始めた。
晴子は、おそらく天空の世界のガジェットなのかなぁと思った。
「なるほど。今調べてみましたら、3900万円程貯金をなさっていたようですね。うん、お金持ちですね」
女神様にニッコリと微笑まれ、照れたように頭を掻いた。
「研究生活も、どちらかと言うと充実しておりました。あんな目に遭わされなければ、私もいわゆる勝ち組であったのではないかと。ですから、……自分の行いに、いささかの後悔もありません!」
キッパリと断言する晴子。女神様相手に、どうせ嘘もブラフも通じない。なら正直に、誠実に包み隠さず話そうと思った。