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ついに研究所の放火で、志半ばで亡くなった晴子。
苦しみに満ちた今生に別れを告げ、上下左右のない白い霧に覆われた世界で目覚めた彼女。
「おらぁ~は死んじまっただぁ~っ、おらぁ~は死んじまっただぁ~っ、……」
ひとしきり歌ってはみたものの、どこからも何の反応もない。
「……」
しばし考えを巡らせてから、自分があの世にきてしまったのだと判断した。
「復讐の鬼となって、殲滅してやるっ! 道真公のように、アイツらの頭上に雷を落としてくれてやるっ! もぉうっ、あったまきたっ!」
床を踏み鳴らして、カンカンに激怒する彼女。
でも、その床も天空の雲のように白く曖昧で、何とも踏んだ感触がふかふかとしている。
すると、晴子はその感触が、生前に愛用していたクッションに似ていると思い出す。
思い切って、この上に横になったら、案外寝心地がいいのでは?
さっそく試してみると、……ふわふわのすぷすぷ。
「これは、……とってもクセになりそう」
ここで晴子は、死後の世界にきて初めて笑顔になった。
どうせ、もう死んでしまったのだから、特にやる事なんてないだろう。
なら、このまま惰眠を貪るのもありではないか?
「ありではないか? ありではないかぁーっ!!」
どうせ、誰も人なんていっこないんだ。だったら、思う存分だらけてやるっ!!
「よぉうっ! オマエさんもこっちにきちまったか。まぁ元気そうで何よりだ!」
突然の男性の声に、晴子は思わず肩をびくりとさせる。
「えっ!? あなたも!? いつから、こちらにいらしたのですか?」
「そうだなぁ、……もう忘れちまった」
彼は、かつて失踪した晴子の所属するチームの同僚だった。
こんなところにいることから、おそらく彼も何者かに殺されてしまったのだろうと晴子は推察する。
「あなたもお元気そうで。お変わりなくて安心しました」
「ハハハッ、まぁな。そうだな、これからオマエさんに会わせたい方がいるんだ。急なことで戸惑うばかりだと思うのだが、なぁ、会ってはくれないか?」
「えぇ構いませんよ。どうせここにいても惰眠を貪る位ですから」
そう言って、晴子は素直に頷いた。
かつての同僚は感謝すると言ってニコリと笑うと、晴子を連れて霧の中を進んでいく。
「私は、これからどなたとお会いすればいいのですか?」
晴子は、半ば興味本位で訊ねていた。わざわざ人を寄越して出迎えてくれる位だから、悪い待遇を受けることもないだろうと思った。
「この世界の調律者が、お待ちになっている」
「それって、もしかして『神様』ですか?」
晴子のセンサーが告げている。これから面白いことになるぞと。
「あぁ、キミと話がしたいと、さっきから急かされてな!」
どうやら、先方は思った以上に人間的な方のようだと、晴子は推察した。