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01 晴子の身体が燃えている_03

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 聖徳晴子は、妙齢の薬学者だ。


 彼女は地方都市の、とある中産階級の家庭に生まれた。

 豊かな家庭に育った晴子は、家族仲にも恵まれ、幸せな子供時代を過ごしていた。


 晴子は、見目麗しい子。幼稚園に入り、多くの幼児達と共にすると、その美しさ、可憐さ、笑顔のかわいらしさは突出していた。


 そこまでなら、世間でも稀によく聞く噂話程度のことなのだが、その噂には更に続きがあった。


 その幼女は、先生がお遊戯を教えれば直ぐに行動に移せるし、歌を教えれば直ぐに暗記して諳んじるし、体育の運動も男の子顔負けの動きをしていた。


 ある時、先生が急な用事を済ませて戻ってくると、通常なら子供達が泣いて喚いて大変な状況になっているはずだったのが、とある幼女の采配で、他の幼児達が、皆穏やかに楽しそうに過ごしていた。


 それが、聖徳晴子。まだ4歳の出来事だ。


 先生は、直ぐに国の上級機関に報告すると、血相を変えてやってきた役人達を前に、晴子は、その能力の高さを遺憾なく発揮した。


 公的機関で更に綿密な検査を受け、大人達が下した判断は、……晴子こそ、並列処理の異端児。まさしく天才だということ。


 大人達は、この優秀な脳を活かすべく、彼女を国立の教育機関に進学させることを、両親に提案した。

 だが、晴子は、せっかくできた友達と離れ離れになりたくないし、親にも不便をかけたくなかった。


 彼女は、役人達の思惑に乗ることはせず、その後、公立の小学、中学、高校と進み、最後に都内の私立大学に進学する道を選んだ。

 その大学で恩師にも恵まれ、彼女は優秀な生徒として注目を集めていく。


 恩師の下で大学院に進学すると、晴子は日本全国を精力的に回って土壌探索をし、ある時、特殊な放線菌を発見する。


 分析の結果、その放線菌が、アイウィルビンと呼ばれる酵素を多く生成することを、晴子の所属する研究チームは、ついに突き止めた。


 その後、研究チームは、アイウィルビンを培養して、アイウィルメクチンの開発に着手する。


 晴子が非業の死を遂げたことも含め、その薬剤は仙薬エリクサーと呼ばれ、21世紀最大の発明と称えられることになる。


 飛躍的に生物の寿命を伸ばし、老いにくく健康な身体を獲得できる万能薬の開発に漕ぎつけた晴子。

 彼女は、まさしくノーベル生理学賞を期待される程の優れた研究者だった。


 生前の晴子は人品正しく、生涯独身で美貌の持ち主で、何よりエネルギッシュだった。

 一人で10人分の活躍をし、10人と同時に会話をし、思考の並列化作業をする、いわゆる天才だった。


 不眠不休で日夜研究に明け暮れる毎日で、彼女の成果を羨む権力者達から絶えず狙われていて、……その生涯は、大変危険に満ちていた。

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