『海運都市ルルイエ』
戦後セカイ全体に於ける物流の心臓部とも言える海上都市で、セカイ中を回りながら荷物を運び続ける拠点積載型超巨大メガフロート。
ネオパンゲア大陸の周囲を時計回りに巡回し、ネオパンゲア大陸とその周囲に散らばるユーラシア諸島をはじめとした群島との貿易も取り持っている。
セカイで最も大きい倉庫街と、様々なモノの交易所が立ち並ぶ大市場には職人達が多く所属していおり、常に何らかの取引や商談がそこかしこで行なわれている。
一方、世界各地を回る事からリゾートとしても有名で、観光業へも多大な投資・開発を行なっている。
ルルイエという街そのものが、セカイでもっとも巨大なインフラと言っても過言では無いだろう。
余談だがルルイエという名前は街の創始者で現ルルイエ商工会議長である『ダゴン・C・ベルクライン』が好きな小説群に登場する架空の都市から名付けられた。
・・・
いつもの様にルルイエに入ってからスゥとプリデールは別行動になった。
案の定暇になったスゥがブラブラとルルイエの大市場を歩いていると、通りの先の方になにやらヒトだかりが出来ていた。
怪訝に思ったスゥがヒトだかりの間から覗いてみると、西洋風の甲冑で武装した集団が道路を封鎖している。
その武装集団の中心には腕組みして仁王立ちしている少女の姿があった。
年齢は大体高校生位でカールのかかった桃色の髪をポニーテールで纏めている。
燃えるような真っ赤なドレスと銀色の脚甲が特徴的だった。
甲冑の集団もさることながら少女の着ている服も一目で分かる程の高級品だったが、それを違和感無く着こなせる少女の育ちの良さがにじみ出ていた。
スゥはその少女に見覚えがあった。
「あ」
仁王立ちの少女の名はメゾーレ・ジュラルバーム。
スゥとプリデールがこの旅で訪れた七大都市、学園都市ジュラルバームを興した大貴族ジュラルバーム家の嫡子であり、スゥがこの間ちょっかいをかけてパンツ丸出しにさせてしまった相手である。
「あっ!!……遂に見つけましたわよ!スゥ・サイドセルッ!!」
メゾーレはヒト込みの中にスゥの姿を見つけるとビシィッ!!一直線に指さした。
すると気圧されたヒトだかりが綺麗に真っ二つに割れてスゥの姿が露出した。
普通ならば萎縮して声も出せなくなる様な状況だったが、スゥは不敵に笑みを作っていた。
突然理不尽な修羅場に巻き込まれたとしても、雰囲気に飲まれたら負けという事をよく知っているからだ……ただまあ、半分くらい虚勢ではあるが。
「で?そんな連中までゾロゾロ引き連れてアタシに一体何の用だい、オジョーサマ?」
「スゥ・サイドセル!貴方に決闘を申し込みますわ!私とサシで戦いなさい!」
「悪いが、決闘なんて申し込まれる心当たりが思い当たらないんだが……ヒト違いじゃねーのか?」
無駄だとわかってはいたが一応とぼけてみるが、メゾーレはつり目をさらに吊り上げて激昂した。
「大学園祭の時、貴方がコソ泥と結託して卑怯にも私に不意打ちを仕掛けた事!既に証拠は挙がってますのよッ!」
「ああ、思い出したぜ。あの時のオジョーサマか……つまりお礼参りって事か……だがアタシがアンタの決闘とやらに付き合う義理は無いよな?」
「勿論それでも構いませんわ……でもその場合、貴方は一人でジュラルバームの誇る近衛騎士団の精鋭達を相手にする事になりますわね」
ジュラルバームの騎士団と言えば、現在のセカイでの最大規模の戦闘集団の一つだ。
元々はメゾーレの母親、マリィ・ジュラルバームが率いていた部下達がその始まりとされているが、それも過去の話になりつつある。
現在は近衛、警察、街境警備、拷問等々他部門に分かれており、七大都市ジュラルバーム全体の治安維持を担っている。
その精鋭が相手となれば、流石にスゥと言えど無事は済まないかもしれない。
(面倒な事になっちまった……)
スゥ一人ならば逃げれば済む話だが、今はプリデールがこの街で仕事中だ。
騒ぎが大きくなってルルイエ全体の警備が厳重になってしまえば、プリデールの仕事に支障が出るだろう。
そう考えるとスゥは逃げられない状況にあるが、しかし幸いな事にメゾーレは決闘を申し込んで来ている。
どんなルールを提案してくるのかは未知数だが一旦はメゾーレの言う決闘に乗ってこの状況を切り抜けるしかなさそうだ。
「……その決闘、アタシが勝ったらどうするんだ?」
「もし貴女が勝ったなら、あの時の事は水に流して大人しく引き下がりましょう……まぁ、勝てればの話ですけど?」
「ルールは?」
「決められた範囲内で私と貴方の一対一、武器の使用は自由ですわ」
「……わかった、その『決闘』とやら、受けてやるよ」
「よろしい、では場所を移しましょうか」
メゾーレは踵を返すと、そのまま何処かへ向かって歩き始めた。
スゥも前後左右を甲冑の騎士にガッチリ固められながら大人しくそれに続いた。
(もともとコイツはアタシのミスだ。アタシはあの時、ジュラルバームで見ず知らずのガキを助ける必要は全く無かった……それをテメェの感傷で勝手に手を出して、挙句こんな所にまで厄介事を持ちこむ結果になった……状況は不利だが、なんとか独力で切り抜けるしかねえ)
メゾーレ達に連行されて着いたのは、だだっ広い公園だった。
二人は10メートル程の距離を空けて対峙している。
騎士達は公園の周囲をぐるりと取り囲んで、二人を監視している様だ。
「範囲はこの公園内か?」
「そうですね……この公園から出なければなんでもアリで構いませんわよ」
「随分な自信じゃねえか……そんなんじゃまた足を掬われるぜ?」
「余計なお世話ですわね」
軽口を叩きながらスゥはポケットの中に手を入れると、ゆっくりとコインを一枚取り出した。
そしてそれをメゾーレにもよく見える様に自分の目の高さまで持ち上げる。
「ありきたりだが……コイツが地面に落ちたらスタートっていうのはどうだ?」
「……わかりましたわ」
メゾーレはすでに臨戦態勢に入っており集中力を高めている。
程なくして、スゥがコインを指で弾く。
コインは回転しながら上昇していって、やがて重力に引かれて地面へと落ちていく。
軽い金属音と同時に接地したコインは……なんともうもうとした白煙を物凄い勢いで噴き出し始めたではないか。
白煙はあっという間に二人の姿を隠し、その中からメゾーレの叫び声だけが聞こえる。
「ひ、卑怯者ー!」
白煙に紛れて移動しながらスゥが言った。
「言っただろ?足元を掬われるってな!」