プリデール、スゥ、ニレの三人組は無事カラカッサに到着後、適当な喫茶店に入った。
そこでスゥは昨晩の襲撃からニレを救った件の報酬の話を切り出した。
「……と、言う訳でだ。アタシに払う報酬を稼いで貰う為に、お前にはこの街でアルバイトをしてもらう」
「はい、頑張ります!」
「今回だけはサービスで私の伝手でバイト先を紹介してやる。向こうにも話を通してあるから、お前の給料の半分が自動的に私に入るって寸法だ、何か質問はあるか?」
ニレは少し考えた後、思い出した様に声をひそめた。
「……あの、追っ手とかはもう大丈夫なんでしょうか?」
「基本的に今のセカイは七大都市すら街の外まで統治してないし出来てないってのが現状だ。そして中央大陸にある港は全部このカラカッサも含めて七大都市のひとつ『ルルイエ』の勢力圏になってる」
「つまりどういうことです……?」
「いくら七大都市と言えど、他の七大都市に自分達のルールを押し付ける事が出来ないんだよ、それぞれ法律が違うんだ。もしここにノアの兵隊が介入して来たとしたら、それはもうノアとお前だけの問題じゃ済まねぇ、街と街の問題になっちまうのさ」
「……凶悪な犯罪者に対処するとかなら街同士で連携する事もあるみたいだけどね」
スゥの説明を補足する様にプリデールが付け足した。
「さてと……前置きが長くなったが、ここでお別れだな」
「……本当に、色々とありがとうございました」
ニレが丁寧に深々と頭を下げたのを見て、面倒くさそうに手を振った。
「いいっていいって、そういうのは……じゃあな、せいぜいキリキリ働けよ」
スゥとプリデールは案外あっさりニレと別れた。
ニレを見送った後、スゥが欠伸を我慢しながら言った。
「さて、アタシは寝てくるわ……夜の運転はやっぱ疲れる」
「……私はいつも通り用事を済ませてくるわ」
「了解、しんじゃいつも通り用事が済んだら教えてくれ」
・・・
白い砂浜に透き通った青い海。
空も快晴で日差しも柔らかく気温高め……今日はバカンスにはうってつけの陽気だった。
港町カラカッサはリゾートを兼ねており、綺麗に整備された白い砂浜は観光客達で賑わっている。
ニレと別れてから数日後、ルルイエ待ちで時間が空いたスゥとプリデールは適当に暇を見つけて海水浴をしに砂浜に来ていた。
勿論今日は二人共水着を着用していて、普段は隠している肌を大胆に晒している。
スゥはシンプルな黒のハイレグの水着の上に薄いシャツを着ていて、一方プリデールはピンク色のオフショルダーのビキニに白いレースのパレオを巻いていた。
「買ってきたぜー」
スゥが日光浴をしているプリデールの元へ、トロピカルジュースを両手にやって来た。
「ありがと」
テーブルにジュースを置くとスゥもプリデールの隣のビーチチェアに寝転がった。
「予定じゃあ、そろそろのハズだが……」
スゥが沖合いの方を見て呟くのをプリデールはトロピカルジュースをストローで飲みながら横目で見ていた。
「……なあに?気になるの?」
「ルルイエの実物は初めてでな……こういう機会でもなけりゃ滅多にお目に掛かれるモンでもねえし、そりゃ気になるぜ」
スゥは頭の後ろで手を組みながら、雲ひとつ無い空を眺めた。
快晴の空に輝く太陽の光が強すぎて目が眩む。
「……太陽の真下ってのはアタシにゃ少し眩しすぎるな」
「今日みたいな陽気には皆そう思うんじゃないかしら?サングラスでもかけたら?」
スゥは不思議な青い光を放つ腕輪型のキャスターからサングラスを取り出してかける。
「……いい塩梅だ」
しばらく二人でのんびり過ごしていると、沖合いに島の様なものが現れて汽笛を鳴らした。
その音は凄まじく、おそらくカラカッサにいる街中のヒト全員が気付いただろう。
スゥがビーチチェアに寝転がったまま、サングラスを指で持ち上げて島の方を見た。
沖合に現れたあの島こそが世界を巡回するメガフロートの上に作られた街『海運都市ルルイエ』二人の次の目的地だ。
「……なあ、ルルイエに行くのは明日からって事でいいか?」
スゥが隣で日光浴をしているプリデールに声を掛けたが返事は無い。
良く見ると静かに胸を上下させて幽かに寝息を立てているのがわかる。
「…………」
「……寝てるのか?」
スゥは体を起してジュースを一口飲むと、再びビーチチェアに寝転がった。