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かたつむりの観光客39

 旅の道中、成り行きとちょっとした親切心でニレを拾ったスゥとプリデールはニレに対する追手の襲撃の可能性を考えて、人目を避け少し道から外れた場所で車中泊をして夜を過ごす事にした。

夜の闇に紛れて先を急ぐという選択肢もあったが、深夜に街に着いても中に入れなければ意味が無い[※七大都市程の大規模な街ならともかく、中小規模の町や共同体では夜間の出入りを制限している所が多い]

照明を落として暫く経った頃、突然スゥが二人に声を掛けた。


「二人共、起きてるか?」

「……はい」


眠れなかったのか起きていたのか、ニレはすぐさまスゥの声に反応した。


「……30人くらいかしら?」


プリデールは愉快な目が描いてある安眠マスクのまま答えた。


「多分外に居るのは私を追ってきた奴らだと思います。おそらくノアの追撃部隊……そこらへんの野盗とは訳が違う、精鋭ですよ」

「……まぁ、そうだろうな」

「投稿して、私から出て行けば、お二人は狙われないと思うんです」

「本当にそうかしら?」

「今日は助けてくれて本当にありがとうございました、ヒトに優しくされたのは生れて初めてで……嬉しかったです。どうか私を置いて、お二人は急いでここを離れて下さい」

「……まぁまぁ待て待て、一人で盛り上がってんじゃねえーよ」


キャビンから出て行こうとするニレをスゥが呼び止めた。


「お前が大人しく奴等に捕まったら、どうなるんだ?」

「それは……」


 勿論ニレは言葉に詰まった。

そんな事は言わなくても容易に想像がつくだろう、キメラに人権が無い街で奴隷であるキメラが体制に逆らったらどうなるか?

運が良ければ殺されるだけで済むかもしれないが……死ぬよりも悍ましい扱いになる可能性も十分にあり得る。

ニレの様子を見兼ねたスゥがヤレヤレとおちゃらけた風に言う。


「全く、お前は運が良い奴だ……ここに絶賛お仕事受付中の『何でも屋』が居るんだからな」

「でも私お金なんて……」

「大丈夫、何も今すぐ払えなんて言わねえさ、分割払いも受け付けてるから安心しな……プリデール、悪いが手伝ってくれ」

「……仕方ないわねぇ。いいわよ、焼肉美味しかったしね」

「……や、やきにく?」


プリデールが何を言っているのか理解できず、ニレは目を点にしていた。


「よしよし……二人なら3分もいらねえだろ、さっさと片付けるか」


状況がよく飲み込めてないニレをほっといて、二人はさっさと外に出て行ってしまった。


「え!?ま、待ってくださいよ!」


 ニレは慌てて二人を追いかけた。

二人の気持ちは嬉しいが、それならば自分の戦わなければ……と、覚悟を決めて外へ出たはいいものの。

戦闘……いや、これは戦闘にもなってなかった、いうなれば一方的な処理。

この二人にとってノアの戦闘用キメラで組織された追撃部隊程度では、まるで相手になってなかった。

何故か無効化されない銃撃、瞬く間に首を切り落とされて死んでいく敵。

追撃部隊はほとんど何も出来ないままに全滅し、スゥの読み通り3分も掛からず片付いてしまった。


「すごい……いくらなんでも強すぎる、お二人は一体何者なんですか!?」


 ニレは二人の戦闘力に驚愕した。

戦闘力では自分も特別製だと思っていたニレが「アレ?私って案外普通?」と思い直す程には二人の強さは群を抜いていた。

何か言いたげなニレの視線に気づいたスゥが不敵な笑顔を見せた。


「……おっと、詮索はナシだぜ。私らだってそれなりに『ワケアリ』なんでな」

「なんか目が覚めちゃったし、お茶にしましょ」

「そうだな、ここに留まるのもあぶねえし、一服したら出発するか……ニレ、お前何飲む?」


 色々言いたい事や聞きたい事がニレにはあったが、どうやら何を言ってもまともに答えてもらえそうないのでニレは質問を諦めた。


「……じゃあ、ミルクティーで」

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