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かたつむりの観光客38

 20番がスゥ達に拾われた日の夜、三人での夕飯を食べ終わった後、思い出した様にスゥが20番に聞いた。


「……そういえばよ、アンタの事なんて呼べばいいんだ?」

「え?」


 突然の問いかけに20番は言葉に詰まった。

そんな20番を横目に見ながらスゥは食器を手際良く片付けながら続ける。


「名前だよ、名前。この先無いと困るだろ?」

「うぅ~ん、急に言われても……そもそも私、名前が無くて」

「じゃあ普段はなんて呼ばれてんだ?」


 闘技場ですでに20番と呼ばれていた事を知っていて、敢えてスゥは聞いた。

少し沈黙した後、20番は小さな声で答えた。


「番号、ですかね……20番とかT(タウロス)-20とか」

「ふーん番号か……じゃあ、そうだな……2と0だから縮めて『ニレ』。ハイ決定」

「ちょ、ちょっと、困りますよ!私の名前をそんな勝手に……!」

「まあまあ、暫定的なもんだからよ。気に入らなけりゃ後で変えれば良い」

「ええっ!?そんなのアリなんですか!?」

「別に珍しくねえぞ?戦時中に生まれた兵隊連中には元々名無しって案外多いからな……そういう奴は自分で決めるんだよ」

「……そういえば、私もそうだったわね」


珍しくプリデールが会話に入ってきたのに驚いて、二人はプリデールを見た。


「私はお花の名前からとったのよ、プリデールって」

「ほらな?いわばコイツ自称プリデールだぜ?なんか笑えるだろ?」


スゥがプリデールを指差しながら言うとプリデールは眉根を寄せた。


「……ヒトの事、指差さないでくれる?あとその言い方はやめて」

「わりぃ、例えるのに丁度よかったから、ついな」

「……まったく」

「う~ん、でもなんか……確かに私もよくわからないから上手く言えないんですけど、名前ってそういうものじゃないような……」

「じゃあどうすんだよ?親が居ねえなら、名前なんて誰も付けてくれねえぞ?ノアの研究所に行って聞いてみるか?」

「そこから逃げてきたのに、そんな事出来る訳ないじゃないですか!でも、うぅぅ~ん……」


ニレという名前[暫定]をもらった20番はそのまま考え込んでしまった。


「よろしくな、ニレ」

「よろしくね、ニレ」


スゥとプリデールはこれみよがしにニレの名前を呼んでからかった。


「急に息合わせないで下さいよ!」


・・・


 スゥはその日、昔の事を夢に見た。

ピンクジャムのママ、ステラ・ローズに拾われて、住み込みで働き始めてから少し経った頃の事だ。

スゥが閉店後の店で皿洗いをしている時、ステラが一方的に宣言した。


「今日からアンタの事『スゥ』って呼ぶ事にしたから、ハイ決定」

「ハァ!?勝手に決めてんじゃねーぞババア!」


反発するスゥに先ずは頭上から拳骨が降ってきた。


「じゃあさっさと自分の名前決めちまいなよ、呼びにくいったらありゃしない!」

「イッテェ!いきなり殴るんじゃねえ!」

「アンタ、そんな口聞いといていきなりもクソもあるかい!客の前でやったら承知しないよ!」

「……チッ、わーったよ!好きに呼べばいいだろ!」

「ついでだからアンタ、今日が誕生日って事にしな」

「ハイハイ……勝手にしなよ」

「相変わらず可愛くないガキだね!皿洗いなんかサッサと終わしな!この後アンタの誕生パーティやるんだから!出かけるよ!」


 自分の誕生パーティと聞いて、生まれて初めての事にちょっと気恥ずかしさを隠しきれないスゥは下を向いてステラに顔を見られない様にしつつ、極力感情を抑えたつもりの声で言った。


「……一体どこいくつもりなんだよ?」

「ティファニーの店」

「キャバクラじゃねーか!!!」

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