鎖で拘束された20番が激しく身をよじって鎖から逃れようと試みるが、その程度で逃げられる程オーグルは甘い相手では無かった。
オーグルが下卑た笑みを浮かべながら、ゆっくりと壁に磔にされた状態の20番へと近づいてくる。
不用心にも足が届く距離まで近づいて来たオーグルの顔面に蹴りを思いっきり叩きこむが、オーグルは涼しい顔で蹴りを顔面に受けながらも、構わず20番の上着に手を掛けた。
今から何をされるのか察した20番は焦りの表情から、それが驚きと恐怖が混じった表情へと変わる。
その瞬間、20番の脳裏に今までの試合に負けて凌辱され、挙句の果てに殺された女の闘士達の無残な姿がフラッシュバックし、大きく目を見開いた。
生まれた時から道具扱いの実験体で、自分の命もあんな風にに無残に終わるのかも知れないという恐怖が20番の心を追い詰める。
その感情は、このリングで戦い負けていったモノ達が一様に抱いた生への渇望だった。
例え明日が碌でもないものだと決まっていても、それは今日死んでも良いという事にはならない。
(やめろ……いやだ、こんなところで終わりたくない……!)
20番は思いきり頭を振りながら抵抗を続けるが、それも空しく結果に終わると、遂には悲痛な女の叫びが会場内に響き渡った。
オーグルは絶望した瞬間の20番の表情を見てニタリと笑みを深くした。
「止めてェェェッ!!」
次の瞬間、ビリビリビリ!という布の裂ける音と共に20番の上着が無理矢理下着ごと剥ぎ取られた。
健康的な褐色の肌と体格の割には大きい乳房が衆目に晒される。
「ワァァァァ!!!」
勿論会場は大盛り上がり、場内は熱気と大歓声に包まれた。
「うっ……うぐっ、ぐううッ!」
20番は羞恥と悔しさのあまり涙を流しながら、さらけ出された胸を隠す事も出来ずオーグルを睨め付けた。
ノアに生まれ付いただけで、どうしてここまで理不尽な目に合わなければいけないのか、という今まで努めて抑え込んで来た感情が一気に溢れ出し、20番の頭の中をぐちゃぐちゃに?き乱す。
しかしながら20番へ待ち受けるむごい仕打ちは、これで終わりでは無い。
観客達は何よりも血が見たいのだ。
怒りに駆られた20番は再び思いっきりオーグルの顔面を蹴り上げるが、そもそも体格差がある上にまともに力の入らない状態なので全力で蹴ってもオーグルに鼻血一筋すら流させる事すら叶わない。
「ほうら、客はまだ満足しちゃいねぇぜェ!」
オーグルはゆっくりと拳を振り上げ、それを思い切り20番の腹部に叩き込んだ。
20番も必死に腹筋に力を入れて耐えようとするが受け身も取れないサンドバッグの様な状態で受けている為、拳の威力を殺しきれない。
「……ガッハァッ!」
せめて無様な悲鳴だけは上げまいと耐えて反撃のチャンスを伺う20番だったが、そんな抵抗は所詮焼け石に水にしかならなかった。
20番は悲鳴こそ上げなかったものの、あまりの痛さと衝撃にたった数発殴られただで涙が飛び散った。
殴られ続ける20番は、身体が痛みで反射的に硬直してしまう為、反撃すらままならない状態だった。
強烈なパンチに歯を食いしばる事も敵わず、無様に血液の混じった唾液を撒き散らす事しか出来ない。
そして三十五発目のパンチを受けた後、ついに20番は限界を迎え、胃の内容物を地面にぶちまけた。
「ハァ、ハァ……ガハァッ!……えうッ!うおぇえ!おええあぁ!ゴホッ!ごっほ!」
ここで観客達は今日一番の盛り上がりを見せた。
「「「ウオオオアアアア!!!」」」
「見ろよ!客が喜んでるぜぇ!グハハ!」
オーグルは勝ち誇ったように20番の水色の髪を掴んで持ち上げ、顔を上げさせる。
20番の顔は顔面から噴出したあらゆる体液でぐちゃぐちゃになっていたが、それでもその眼はまだ諦めに染まり切ってはいなかった。
未だ屈服していない20番の瞳が、僅かにオーグルをイラつかせる。
「……チッ!まあいい、サービスはここまでだ……あとは潰れて死になァ!」
オーグルの渾身の拳が、今度は20番の顔面を完全に破壊する為に振るわれる。
(あーあ、こりゃ流石に終わったな……)
一方観客席で適当にダラダラと試合を見物していたスゥが席を立とうとしていた。
これからは今まで通りの退屈なショウになって終わる事だろう。
時計を見れば17時を過ぎたあたりだったので、丁度いい頃合だ。
スゥが席を立ち、帰ろうと出入り口に行く途中、背後から観客のどよめきが聞こえてきた。
「…………?」
違和感を感じたスゥが背後を振り返ると、そこで妙な光景を見る事になった。