「これがアタシ……?」
ミツボシの目利きの通り素材が良かったのか、それとも飾り付けたスタッフの腕が良かったのか……はたまたその両方なのか。
姿見の前に立つ純白のドレスを纏ったスゥは、それなりにサマになっていた。
「ンンまぁ~~~!ステキッッ!ステキよスゥちゃん!私の見込んだ通りだわぁ~!」
ミツボシはドレスアップが完了したスゥを見て興奮状態にあった。
しかしそれも仕方のない事だ、あーでもないこーでもないと3徹してデザインしたドレスが今まさに彼女自身の理想を超えた形で完成したのだ。
そりゃテンションも上がるというものだ。
(もしかしたら……生まれたのが新月街じゃなかったとしたら、この姿がアタシの普通だったのかもな……)
スゥは自分の頭をよぎった妄想を否定した。
(いや、んなこたねーか……どこで生まれようとアタシはきっとアタシのままさ)
珍しく少し感傷的になったスゥだったが、この数分先に地獄の入り口が待っていようとは夢にも思っていなかったのだった。
・・・
とっぷりと日が暮れても暗くなっても、夜のケテルの街並みはネオンで彩られて、むしろ昼間より色鮮やかに感じる程美しい。
七大都市の中でも最も『美しい』だからこその芸術都市と言ったところか。
ケテルの中心地、大文化広場は夜も賑わいを見せていた。
行き交う人々は老若男女喜怒哀楽様々で……車のライトの群れが光の尾を引いて川の様に流れていく。
軽自動車、ワゴン、乗用車、バス、タクシー、モンスタートラック……プリデールは読書で疲れた目を休めるついでに光の河の流れ行く様をなんとなく眺めていた。
カップに残った最後の紅茶を喉に流し込むと、空になったティーカップをソーサーに戻しながら時計を見る。
時刻は19時半過ぎを指していた。
16時過ぎに買い物を終えてから、今いる喫茶店に入ってからもう随分時間が経っていた。
そろそろ先に一人でホテルに戻ろうかと考えていると、コロンコロンと上品なドアベルの音が店内に響き、新しい客が入ってきた。
新しい客は重い足取りでプリデールの向かいの席まで来ると、耐えかねたようにドカッと腰を下ろした。
「はぁ~~~~~……!」
疲労とグダグダになったスゥを見て、プリデールはくつくつと笑った。
「随分お疲れの様ね?」
テーブルに顎を付けたままの体勢で、スゥが答えた。
「写真取られるだけだってのに、あんな縛り付けられた盆栽みたいな気分になるとは思わなかったぜ……」
初めてのモデルが相当キツかったのかスゥは相当参っている様子で、すぐに店を出ていける状態ではなさそうだ。
気が付けばウェイターが注文を取りに二人の席まで来ていて、メニューには夜専用の酒類や料理が出揃っている。
スゥが机に顔をつけた状態のまま、顔だけをプリデールの方に向けた。
「アンタ、酒は?」
「少しね」
「……じゃあ付き合ってくれよ」
「いいわよ」
スゥはビール、プリデールはワイン、それと適当に肴になる料理を数点注文して、二人はもう少し店に居る事にした。